双世のレクイエム
そうして着いた場所には『控え室』とプレートが掲げられており、中に入るとおよそ30弱の生徒たちがいた。
新入生だけでなく上級生もいるらしい。
上級生たちが談笑する様子を横目で捕らえたワタルは密かに息をついた。
「(『新入生にはこれで十分』ってことかな。…学園側も随分イジワルだなぁ)」
「…ワタル?」
「え?あ、なんでもないよ。…ていうかいつまで手握ってんの」
「きゃっ、だって私たち公認のな・か・で・しょっ。照れないの(はあと)」
「うざっ!きもっ!土に埋まって!」
「あ、結構ひどいことズバズバ言うのね」
そんなとこもダイスキよー、と隣でほざくエルの手を払い、怪訝な顔で距離をとる。
冗談とはわかっているが、例え冗談でも気持ち悪い。そんな趣味は勿論ない。
とりあえず抱きつかないで。
「にははっ、仲良しだねぇ」
「……。」
背後から聞いたことのある声が聞こえた。そしてそれはワタルたちに向けられたもので。
恐る恐る振り返れば、「よっ」と片手を挙げて笑みを浮かべる少女・オリトがいた。
白髪なものだから、てっきり療杏かと思いドキリとしたことはワタルだけの秘密である。
どうも最近、療杏の顔をまともに見れないワタルにとって、白髪というのは心臓に悪いらしい。
もっとも、療杏はオリトのようにチビではないのだが。
「ワタル、だっけ?聞いたよ~、入学式で暴れて、クエストで暴走したひと!」
そういう風に見られていたのか。
知らなかったと思う反面、まさかこういう形で目立つことになるとは…。と、ワタルは目を泳がせた。
そんなワタルの心情を知ってか知らずか、オリトは笑いながらワタルに顔を近づける。
鼻と鼻がくっつきそうなほど近い距離にある女の子の顔に、当然ながら男であるワタルはドキドキした。
…もちろん、オリトが危険人物という意味合いでも動悸が激しくなったこともあるが。
とりあえず近い近い。
「な、なに…?」
「…ふむふむ。ワタルは今までに嗅いだことのない臭いがするねぇ。ほんのり微かな…、でも、無臭に近いかな」
「は…? に、臭い?」
「うん、臭い」
でも臭くはないよ。
そう言ってにぱっと笑うオリトだが、いや、そういう問題ではない。
なぜいきなり臭いを嗅いだのだ?
彼女なりの挨拶か?
疑問符を浮かべるワタルに、オリトはあどけない笑みでこう言った。
「別にぃ。ただ、吟味してただーけっ。ワタルは駄目だね。
食指が動かない臭いだ」
食指が動かない。
その言葉にゾクリと体を震わせたワタルはどういう意味だと口を開くが、その意味を尋ねる前にオリトはどこかへ言ってしまった。
よくわからない娘(こ)だ。