双世のレクイエム
一体全体何なのだと止まらない背を見つめるが、オリトは決して振り返らなかった。
ワタルたちもまたオリトに注目していた。だからだろうか、隣にぽつん、と佇む少女・ミケに気づいた時には思わず驚声を上げてしまった。
「え、…え?! いつの間にっ?!」
「……。」
「……。」
「……。」
「あ、あの…」
気まずい。すごく気まずい。
口を開こうとしないミケに、たまらずワタルの方から口を開いた。
ミケはチラッとワタルを見るだけですぐに目を逸らす。
どうしようかと首筋を掻いていれば、その様子を見守っていたエルが堪らず声をかけた。
「オリトならあっち行ったぜ。…そんなあからさまな態度取ったって、初対面のワタルにゃ伝わんねーよ」
「え?エルとミケちゃんって知り合いなの?」
「……。」
そうワタルが尋ねたとき、無言のままミケがエルを睨んだ。
そんなことも知らないワタルはしきりに「知り合いなの?そうなの?」とエルに視線を留めたまま尋ねる。
当然、睨まれているエルの居心地は悪く、『しまった』とでも言うような表情で目を泳がせている。
「あー…、いや、別に…知り合いじゃな、い、…かな?」
「なんで疑問系なのさ?…でも、親しそうに見えるけどなぁ」
「え、まじ「……。」
ミケの睨みが一層強くなった。
ビクッと体を震わせるエルはなんとか話を逸らそうと努めるが、ワタルも案外しつこいもので。
そしてミケとエルの間で冷戦状態、いや、一方的なある意味脅しがかけられてるとは間にいるワタルは露知らず。
エルの手の平にはびっしょりと汗が滲んでいた。
…可哀想なエル。
しかしそこへ、まさに救世主となる一声がかかった。
「そこの生徒3人。もうそろそろで大会が始まるぞ。準備に入れ」
腰に手をあててこちらに視線を向けるトリム先生は今日も麗しゅう。
注意された3人は慌ててその場を後にし、それぞれの持ち場についたという。
白熱必須のノイジー・ファイト。
開始まで残りあと僅か。