双世のレクイエム
ワタルがこくん、と頷いたことで療杏も「おおきに」と笑ってデコに触れた。
これから行うことは、この子のこの先の人生を左右するものだ。
それは分かっている。だからこそ、やらなくてはいけない。
療杏は気を指先に集中させ、ワタルのデコから少しばかりの気を流した。
途端、顔を歪めるワタルに療杏も戸惑う。ほんとうは、傷つけたくないのだ。
しかし、やらねばならぬ。
今度こそ集中して気を流せば、ワタルの体がびくんっと震えたのがわかった。
徐々に閉じていくワタルの目。
その目は確かに療杏を見ていた。
そしてその目が、どうしてこんなことをするのと責められているようで。
「堪忍、こうでもせえへんとあんたは……」
情けないにも、言い訳をするしかなかった。
申し訳なさに顔を歪ませた療杏の手は、今度はそっとワタルの手を握りしめる。
「こうするしかないんどす。あんたを、ワタルはんを助けはるには…」
「……。」
既に意識のないワタルの身を抱き、療杏は豪蓮(くおれん)と同じように、その場からプツリと消えた。
朝日の見える草原にて。
双世に巻き込まれた少年は世界のどこかでまた目覚める。
残された草原の昇り陽は、誰もいない緑の世界を照らしていたのだった。