双世のレクイエム
学園名物、ノイジー・ファイト。
それは騒々しく喧しく、まさにノイズばかりの飛び交う戦場から由来されたものである。
では何故ノイジー・ファイトと言うのか。
それは勿論、このバトルが1対1のものではなく、この場にいる全員が一斉に相手を打ちのめすものだからである。
それはつまり、
「レディー・ゴーっ!」
場合によれば多数派の策略も起こりうるということ。
波乱万丈、いやはや一体どうなることやら。
一方、憑きものである妖怪二人・豪蓮と療杏の二人は会場につながる出場者出入口にてワタルの様子を見守っていた。
朱火はエルについていったようだ。
しかし一体、なぜ二人がここにいるのか。
<…レンちゃん、なんでワタルはん一人にしはるん?わてらが憑かなワタルはん、闘えまへんやろ>
<はあ?あの餓鬼の力だったらこの会場ごと吹き飛ばせるだろう。あいつの力は俺様とお前の合力だ。どれだけ強いかぐれえわかんだろ>
っはん、と鼻を鳴らす豪蓮はオリトと何やら話し込んでいるワタルに目を向ける。
ワタルの力は妖怪二人から受け継いだもの。そう、『二人分』なのだ。
そんじょそこらの餓鬼に負けるはずがない。
そう言い放つ豪蓮に、そういう問題ではないと療杏は顔をしかめた。
<ワタルはんの力は珍しい色なんどすぇ。それをこない目立つとこで発揮したらどうなるんか…容易くわかりますやろ?>
<それがどうした。確かにあいつの力はヤベェ。下手すりゃこのエリート校のクソジジィ共に幽閉されて実験台にされちまうだろうな。
だけど勘違いすんじゃねぇ。俺様がなんのためにあの餓鬼と契約したと思ってんだ>
<それは…>
口を濁す療杏の表情には、確かな焦りが見られる。
『責任を取ろう』と言って契約を結ばせたのは自分。『契約しなければ』と無理強いをしたのは自分。
相方である豪蓮に契約を結べと言った。言ったが…。
<忘れるな。俺様はただ良いようにこき使われるだけの憑きものになんざならねえ。例えお前の頼みだとしても、だ。
だからこそ、あの餓鬼にゃここで晒してもらう必要がある>
<ほんでも…!>
<リャオ。お前、おかしいと思わねえか?なんであの餓鬼と俺様たちが出会ったのか>
<へ…?>
あの日、あの時、あの場所で。
偶然に偶然が重なって起こった彼らの出会い。
それは確かに『偶然』なのか。
<いいから見とけ。あの餓鬼の力がバレたとしても、いや、確実に今からバレるが。それを見てから周りがどう反応するか。
俺らには知る権利がある>
<……。>
<忘れたわけじゃねえだろ。『あれ』はまだ、終わらねえ。そのためにゃ…>
<ワタルはんの力が必要不可欠…っちゅーことやね>
<ああ>
ごくりと唾を飲む音が耳にへばりつき、紅力と蒼力が静かに脈打つ音が波打った。
もう、後には戻れない。
妖怪二人は言葉1つ交わさず、自分たちの契約者である不幸な少年に目を向けたのであった。