ラベンダーと星空の約束
 



 ◇


柏寮に着いたのは、実家を出てから6時間後のこと。

やっぱり東京は遠い。



だけど、今はその移動時間すら、もっと長ければいいのにと思ってしまう。



これから流星に会う。

大樹との経緯を説明しなければならないのかと思うと、気が重かった。



足取りも重く柏寮の木製の外扉を開け、玄関の上がり口に座り込んだ。



中に入るのが怖かった。

自分の靴の爪先を見つめ、そのまま動けずにいた。



すると斜め後ろから
「入んないの?」
と声を掛けられて、

驚いて振り返った。




「お帰り」


「あ…流星……」




彼は大きな靴棚の陰に、壁に背を持たれ立っていた。

腕組みしながら私を見下ろすその顔は、無表情。



そんな所で待たれていると思わなかったから、
心臓が飛び出る程驚いた。



じっと見据えるその瞳に、いつもの柔らかい温かみはない。


冷ややかささえ感じる瞳に射竦めらる。


目も逸らせずに固まっていると、
ゆっくりと歩み寄り、私の方へ手を伸ばした。



あからさまにビクついた私。

それを見て流星は、深い溜息をついた。




「怒ってはいるけど、危害を加えるつもりはないから。

荷物持とうとしただけ。そんなに怯えないで」




彼は私の荷物を取りスタスタと自室に向け歩く。

私もその後ろを黙って付いて行った。



こんな私を流星の部屋にまた入れてくれるんだと一瞬喜んでしまい、

大樹に対し、不届きな考えを抱いた事をすぐに反省した。



部屋に入ると適当に座るように言われ、隅っこに縮こまる様に正座した。



それを見て流星が苦笑いしている。




「足崩しなよ。そんなに身構えられると、虐めてる気分になるからさ。

部屋暑くない?何か飲む?」




怒ってると言っても、流星はやっぱり優しい。


でもそんな優しさを今は見せないで欲しい。

優しい言葉は反って私を苦しめる。

私は責められるべきなのだから……




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