ラベンダーと星空の約束
緊張で口の中が渇いたけど、
こんな立場で図々しく飲み物を欲しがってはいけないと思い、
流星の申し出を断った。
流星は開けた冷蔵庫の扉をそのまま閉めると、
ベットにどっかと腰を下ろした。
長い足を組んだ膝の上に頬杖を付き、
数メートル離れた壁際で、萎縮して座り込む私をじっと見据えている。
「さて…本題に入ろうか。
俺が危惧した通りになってしまったけど、
大樹が君に気があるのはいいとして、
なぜ君の気持ちまで、大樹に向いてしまったのかな?
ただの幼なじみだと、何度も言ってたよね?」
「その…色々とありまして……」
「色々ね……色々あって、一ヶ月の間に大樹を好きになった……」
「好き…と言うか…好きになろうと努力中と言うか……」
「ゆかりちゃんにしては、随分と歯切れの悪い返答だな。
質問を変えようか。
大樹が起こしたアクションを、ありのまま説明してくれる?」
「…はい」
ありのままに……
流星の要求通りに説明すると、
どうしても私の初体験に触れないといけない。
それはとても言い難いことだった。
だけど流星の期待を裏切った私には、彼の質問に正しく答える義務がある。
流星の瞳を直視できず、
俯きながらポツポツと、大樹を選ぶに至る経緯を説明した。
全てを話し終えるまで、流星は一言も口を開かなかった。
相槌すら打たなかった。
更には、話し終えても無言の間が続き……
不安になり、俯いていた顔を上げ、チラリと流星の表情を伺った。
その顔を見て、心臓がドキンと大きな音を立て跳ねた。
流星に…表情はなかった。
怒ってもいない。悲しんでもいない。
勿論喜んでもいない…
まるで操者のいない能面みたい無表情さ…
心を奥深くに閉じ込めて、
感情の籠もらない二つの瞳が、ただ静かに私を眺めていた。
背筋が凍る思いがした。