ラベンダーと星空の約束
 


お弁当の包みは開けられないまま、午後の授業開始5分前の予鈴が聞こえた。



「戻らないと…」と思うけれど、
立ち上がる気力が残っていない。



本鈴がなる直前、
真由から「どした?」とメールが入った。


『気分が悪いから、保健室に行くって先生に言って貰える?』

そう返信して、そのまま食堂裏の日陰の風に吹かれていた。




膝を抱えて顔を伏せ、
どれくらいの時間が経ったのか…

予鈴か本鈴か分からないけど、ベルを3、4回聞いた気がする。



校舎の影は東へと長さを伸ばし、辺りは夕暮れ色に染まりかけていた。


日陰の中に居たせいで、
肌がひんやりと冷たくなってしまった。



ふと足音が聴こえて顔を上げると、

瑞希君が2人分の鞄を持ち、こっちに近づいてくる。



「紫ちゃん…
もう下校時間だよ?」


「うん…」


「大ちゃん…来なかったのか…
取り合えず寮に帰ろ?ゆっくり話し聞いてあげるからさ」




瑞希君は私の手首を掴んで立たせると、

荷物を全て持った上に手を引いて、柏寮まで連れ帰ってくれた。



玄関の靴棚を見ると、
流星の靴がきちんと揃えられて置いてあった。



帰って来てるんだ…



105号室と106号室の間の階段の前で立ち止まり、

廊下の一番奥の110号室…流星の部屋に目を向けた。



部屋にいるのは分かっているのに、今の私にはもう…

気軽にそのドアをノックする事が出来ない。



110号室までの20歩足らずのこの距離が、果てしなく遠く感じた。




瑞希君に促されて206号室の彼の部屋に入る。


制服姿でテーブルを間に向かい合って座る私達は、端から見れば放課後の仲良し女子高生。




「何?」



「瑞希君て、どう見ても女子高生にしか見えないなーと思って…」



「そりゃー僕ほど制服が似合う女子はいないからね。

でも最近は、この座を紫ちゃんに取られそうで焦ってるよ」



「ふふっ 大丈夫だよ。
私なんか瑞希君の足元にも及ばないから」




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