ラベンダーと星空の約束
 



「ハハッ 俺の分だけ超大盛りだね。
いい匂い。何かいいね…こういうの……」



「こういうのって?」



「腹が空いたら『何食べたい?』ってゆかりちゃんが聞いてくれて……

エプロン姿の君を眺めながら、料理が出来るのを待って……

部屋に美味しそうな匂いが立ち込めて、君と向かい合わせにテーブルを囲む。


まるで新婚みたいだよな……あ〜これ冗談だよ?

まだ…冗談には聞こえないか…しまった…ハハッ……」



「流星……」



「うまそ…頂きます。

んっ…やっぱ、ゆかりちゃんのだし巻き玉子って最高!

ただ美味しいだけじゃなく、何か懐かしい味がするんだよな。

あんまり覚えて無いけど、
多分死んだ母さんが作ってくれてたのに似てるんじゃないかな」



「流星のお母さんの味……
あの…良かったら、今度作り方教えるよ?」



「…そうだね、教えて貰おうかな」





今の私には
流星の望む言葉を言ってあげれない。



もし流星と付き合っているとしたら、

お母さんの味の卵焼きの作り方を教えるなんて言わないよ。



流星が食べたい時に言ってくれたら、いつでも作ってあげるよって…

卒業してからもずっと私が作ってあげるよって…

そう言えるのに……




切なくなって、右手の箸の動きを止めた。


左手で制服の上から紫水晶の指輪を握りしめると、

流星の視線が私の左手に向けられた。



それにはドキッとしたけれど、

流星は何も言わずに視線を自分の手元に戻し、黙々と炒飯を口に運んでいた。



紫水晶の指輪は、今ではすっかり私の精神安定剤の役割を果たしている。



この指輪を握ると、
締め付けられる様な胸の苦しさが、不思議と軽減する。



流星のお母さんの形見の指輪…
返さなくてはならないこの指輪…



どうやって返そうかと夏休みからずっと考えてきたけど、今だにその答えは見つからない……




私は自分の分の炒飯を半分残し、
ラップを掛けて冷蔵庫にしまった。



流星は私の3倍の量の夕飯を綺麗に食べ終えると、

「美味しかった。ありがとう」

お礼を言って自室へ戻って行った。



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