ラベンダーと星空の約束
 


彼女の瞳を見つめたまま、
意識が記憶の深い場所に入り込もうとしていた。





 紫(ユカリ)… フラノ…

 ラベンダー… 夏の星空…





思い出せそうで…
思い出せない…



固まり続ける俺を見て、
彼女は困惑した表情を浮かべていた。



その姿に幻の様に朧(オボロ)げな、
少女の姿が重なり始めた…




 紫… フラノ…

 ラベンダー… 夏の星空…

 白樺並木…





白樺並木…?
これは何のイメージだ?




彼女から目が離せなかった。

視覚は確かに彼女を捕らえ、クリスマスソングも耳に聴こえている。



それなのに…意識は自己の中に集中し、

掴み掛けているあの夏を手繰り寄せようと、記憶の底で一人もがき続けていた。



瑞希が俺に近付き呼び掛けた。



「大ちゃん?どうしたの?」



意識の表面では、気付いていた。

しかし返事は出来ない。



もう少しで何かを掴めそうなんだ…

後少しで…

思い出したい…




 紫…フラノ…ラベンダー…

 夏の星空…白樺並木…


  グラスに入った
 ラベンダー色のサイダー…




ラベンダー色のサイダー…?

まただ…

これはいつの記憶だよ…




次々と浮かび上がるイメージは
脈絡のない断片的な物ばかりで、ストーリーを語らない。



もどかしさに叫びたくなった。



後少し…

後少しで…あの夏に手が届きそうなのに…

思い出せ!



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