ラベンダーと星空の約束
 


 ◇◇◇



 ここは…… どこだ…?


気が付くと緑豊かな大地の中、
真っすぐに伸びる舗装道路を、一人歩いていた。



軽く汗ばむ心地好い暑さと強い陽射し…季節は初夏…



空は澄み渡り、南の海を映した様な透明感のある濃い水色をしていた。



その中を綿雲の固まりが、
二つ三つ気持ち良さそうに漂っている。



北東の方角には青々とした十勝岳山系。



緑の畑がどこまでも続き、
濃い夏草の匂いが辺りに立ち込めていた。





そうだ…
ここは“中富良野町”

5年前に見た風景の中を、今歩いている…



これは…夢…?



不思議な感覚に襲われた。

現在の自分の自我に、昔の自分の自我が混ざり込んでくる様な…

そんな不思議な波の中にいた。



そのうねりに身を任せると、
意識は時を遡り…

やがて小6の…11歳の頃に辿り着いた。



小6の夏休み
輝くあの夏を、脳内で、もう一度体験していた…





心臓に負荷をかけない様気をつけながら、ゆっくり歩く。


目的地は滞在先のペンション岡崎から、200メートル離れた隣にある観光農園。



東京からフラノに着いたのは昨日の夕方の事。

昼間のフラノを歩くのはこの時が初めてだった。



心臓疾患を抱える僕は、秋に手術を控えている。



ゆっくり歩くなら大丈夫だけど、フラノでの保護者の岡崎のおじさんは僕の体を心配し、

散歩の範囲を隣の『ファーム月岡』までと約束させられていた。



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