ラベンダーと星空の約束
 


ここに来て良かった。

父さんに
「フラノに行ってみるか?」
と聞かれた時、どうしようかと迷ったんだ。



秋に心臓の手術を控える身としては、環境を変える事が望ましくないのでは?と思ったし、


父さんと離れ、会った事もない遠い親戚に一人でお世話になる事に、遠慮や緊張も感じていた。



だけど最終的には来る事に決めた。



父さんの受け売りだけど、
これから暫くは病院の白く無機質で閉鎖的な空間で過ごさざるを得ないから、

色彩豊かで開放的なこの大地を、今見ておくべきだと思ったんだ。




来て良かった…
滞在2日目にして、そう思わせてくれるこの大地に魅了された。



フラノが好きだ。
だけど、この景色以上に惹かれる存在に出会う事になる。




この日、僕は一人の少女に出会った……




ラベンダー畑の前で佇んでいると、強い太陽光がチリチリと肌を焼き微かに痛みだした。



近くにあった白樺の木陰に入り、休憩することにした。



白樺の幹に背を持たれて座り、草地に足を投げ出すと、

ラベンダーの香りを含んだ日陰の涼やかな風が、僕の前髪をサラサラと揺すった。



暫くぼんやりと景色を眺めてから、持ってきた文庫本を取り出し、栞(シオリ)を挟んだページを開いた。



木漏れ日の当たる本のページを10枚程めくっていった時、

ふと人の気配を近くに感じて顔を上げた。



目の前には3人の子供が立ち並び、何か言いたげに僕を見下ろしていた。



僕と同じ歳くらいの少年と少女。
それから小学校低学年くらいの小さな男の子。



< 395 / 825 >

この作品をシェア

pagetop