ラベンダーと星空の約束
大樹は小学生の頃に弓道を習い始めた。
中学に弓道部はないけど、週に一回隣町の道場に通い、稽古をつけてもらっている。
他の日は大樹の家の農地の片隅に手作りの的を置き、一人で黙々と矢を放っている。
暑い夏も雪に覆われた冬も…
その姿を見るのが好きで、良く側で練習を見ていた。
執り弓の姿勢から弓を構え、矢を放ち静止する。
その一つ一つの動きが、滑らかで、静かで、厳かで…
普段のアホ面から一変し、凛々しささえ感じる真剣な眼差しに…
心が微かに震えた。
大樹なのに、弓を引いている時だけは格好いいと思う。
札幌で射会を見てから東京へ発とう。
しばらくは大樹の弓道姿を見れなくなる。
しっかりと目に焼き付けておこう。
「紫… 俺は…」
「 何?」
「……… いや…何でもねぇ。夏休みは帰って来んだろ?」
「もちろん。
いつも通り観光シーズンはお店の手伝いに戻るから。
だからそれまで大樹も色々頑張んなよ?
あんただって高校生になるんだし、私がいないからって、遅刻したり宿題さぼったらダメだからね?」
「うるせぇよ……
紫、先に教室戻ってろ。俺、顔洗って行くから」
大樹はそう言うと保健室を出て行った。
後一月ほどで毎日見ているその顔が見られなくなる。
そう思うと、少し淋しく感じたりするけど…
今はそれを上回る希望と期待で胸がいっぱいだった。
流星に逢いたい。
いや、逢いたいじゃなくてもう会えるんだ。
流星…会いに行くからね…