ラベンダーと星空の約束
大樹の心配を頭の隅に追いやり、スマホをポケットにしまい込んだ。
大樹の事ばかり考えていたら、また流星を傷付けてしまう。
現に今だって、大樹の名前を出した流星の表情には、どこと無く緊張感が漂っていた。
大樹を大切に思っていいと言ったけど、
それは私の気持ちを察して、そう言ってくれたんだよね…
普通に考えたら、好きな子が自分以外の誰かを思ってるなんて…
恋愛感情じゃなくても嫌な筈。
もう流星を悲しませたくないから気をつけないと…
大樹の話題を避け、それからは3人で他愛もない話しをし、穏やかな時間を過ごした。
食べ終えると13時を回っていた。
13時半に出発すると言われていたから、そろそろ着替えて準備しなければならない。
流星の部屋を出て自室に戻り、瑞希君に服を見てもらった。
「これだけしか冬服持ってないのー?
普段着ばっかじゃん。
う〜ん、少し大きいかも知れないけど、僕の服貸してあげる。ちょっと待ってて」
どうやら手持ちの服に瑞希君のお眼鏡に敵う物が無かった様で、
彼は自室から数枚の服を抱え戻ってきた。
ベットの上に広げたそれは、ワインレッド色の膝丈プリーツスカートと、
上はクラシカルな白いシフォンのボウタイブラウス。
太めのボウタイを胸の前で結ぶと、大きなリボンみたいで、大人過ぎず可愛らしい。
その服に似合うハンドバッグとベルトも貸してくれて、コートと靴以外は全て瑞希君の物だった。
着替え終えるのを後ろを向いて待っていた瑞希君は、
細部をチェックした後、
「うん、可愛い!」
と太鼓判を押してくれた。
その後彼は自分の着替えに自室へ戻り、
私は出発の13時半まで、こたつに入って英単語帳をパラパラとめくっていた。
新しい英単語を10個頭に刻み付けた時、
瑞希君に借りたハンドバッグの中で、スマホが鳴り出した。
急いで取り出すと
着信は大樹から。
やっと掛かってきた事にホッとしつつも、少し緊張しながら電話に出ると、
私が「もしもし」と言わない内に
「お前の部屋何号室だっけ?」
と聞かれた。
「は? 210号室だけど…
何で?」
その問いに返答は無く、
プツリと通話は切られてしまう。