ラベンダーと星空の約束
それらを一通り調べ終わると、最後に医師はこう言った。
「右半身の麻痺は、回復の可能性が十分あるから希望を持って。
一週間は絶対安静で頭を動かしたら駄目だよ。
問題が無ければ、二週目から少しずつリハビリをしていこう。
右腕の裂傷は20針縫ったけど、筋肉や神経を傷付けていないから、今動かせないのは傷じゃなく脳の方の問題だね。
それにしても随分と危ない場所に、“釘”が出ていたものだな。
他の人にも危険だから、階段の手摺りの修理は、早目にした方がいいだろうね」
「そうですね…
寮長に言っておきます……」
釘…
そうか、大樹が弓を持ち出した事を伏せ、適当な理由を考えてくれたんだ……
そうしてくれたのは誰だろう?
流星か瑞希君か…寮の誰かは分からないけど、
そう言ってくれた事に、心の底から感謝した。
大樹が誰に責められる事も望んでない。
まして警察沙汰になんて絶対にして欲しくない。
大樹を守ってくれて…ありがとう……
一週間はICUで過ごさねばならないという話しだった。
その間の面会は1日1時間までと制限された。
そして2週目からはリハビリの日々。
病院で年越しを迎えることになる。
この冬はフラノに帰れない…
医師と看護師が出て行き、家族と流星が戻ってきた。
今の診察結果はすぐに家族にも伝えられた様で、
麻痺が残る事に、両親はショックを隠し切れずにいた。
私は…
溜息はついたけど、不思議とそれ程ショックを受けていなかった。
これからのリハビリの大変さや生活面の苦労を、
まだイメージ出来ていないせいかも知れないが、
今こうして生きていられ、皆の顔を見れた事への喜びの方が遥かに大きかった。
「お母さん…きっと何とかなるから…
お父さんもそんな顔しないで…
どこまで動ける様になるか分からないけど、私は落ち込んだりしないから……
でも…お店の手伝いは暫く出来ないかも…
来年の夏に、レジ打ちくらい出来る様になっていたいけど…
今までみたいな仕事は出来ないよね…ごめん…」