ラベンダーと星空の約束
こういう古い建物は嫌いじゃない。
もちろん平成生まれの私だが、昭和のレトロな雰囲気には何故か懐かしさを覚える。
塗装の剥げた壁面、崩れかけたブロック塀
狭い庭にスクッと立つ一本の柏の古木
その古めかしい姿に趣(オモム)き深ささえ感じる。
周りを囲むマンションの隙間から多摩川と川辺の緑地が見えた。
そこから真っ直ぐに夕日が差し込んで、柏寮は暖かく親密な光で包まれていた。
ここで沢山の生徒達が高校時代を過ごし、巣立って行った…
何十年もの間繰り返される青春の物語を、この建物は静かに見守ってきた。
そして私のこれから三年間の物語も…
「よろしくお願いします」
柏寮の玄関前で小さく呟き頭を下げた。
心が弾んだ。
きっと楽しいことが沢山ある。
流星と再会して、私だけの素敵な物語が始まる。
期待に胸を膨らませ、玄関の木製のドアを静かに開けた。