ラベンダーと星空の約束
◇◇◇
3月は別れの季節…
東京は春めいて、柏寮の狭い庭は、名もない雑草達が土の中からひょっこり顔を覗かせていた。
去年の枯れ葉をまだ数枚ぶら下げている柏の古木も、ふっくらとした黄緑色の新芽を吹いている。
「お荷物以上で宜しいですかー?」
「はい、そうです」
「こちらに確認のサインを……はいありがとうございます。
それでは、こちらの住所に向かいますので」
亀さんとたく丸さんの荷物それぞれを積み込んだ二台の軽トラックは、西と東に進路を違えて走り去った。
エンジン音が聞こえなくなると、これで本当にお別れなんだと淋しさが込み上げる。
玄関前にはタクシーが二台停車し、亀さん達が乗り込むのを待っていた。
「それじゃ…みんな元気でな。
流星、後は頼むぞ。新寮長しっかり頑張れよ」
「はい」
「瑞希、そんなに泣くなよ。
東京にいるんだから、またすぐに会えるから…
わっ!僕の服で鼻水拭かないで!」
「だってたく丸君〜淋しい〜
うわーん!」
亀さんは流星の頭をポンと叩き優しく笑いかけ、
たく丸さんは、瑞希君に涙と鼻水を擦り付けられて困っていた。
「亀さんたく丸さん、これ私達からのプレゼントです」
タクシーに乗り込もうとした2人に私が手渡した物は、
10枚の写真の入った、手作りミニアルバム。
一週間前に流星と瑞希君と3人で、「何か記念になる物を贈りたいね」と話し、
数日かけ、柏寮の写真を撮りまくった。
そして、厳選した10枚の写真に短い言葉を添え、アルバムに仕立てた。
撮影者は私、勿論愛用の一眼レフカメラで。
でも左手だけで撮影するのって思ったより難しく…と言うより不可能だった。
三脚を持ってくれば左手一本で大丈夫な気がするけど、残念ながら実家に置いてきてしまった。
それで、私が「ここ!」と言った位置で、流星と瑞希君にカメラをキープして貰い、
「動かさないでって言ってるでしょー!
絞りが…ピントが…感度が…
あーもうっ2ミリ左にズレたよ…違ーう!」
と文句を付けながら、何とか写真を撮り終えた。