ラベンダーと星空の約束
今まで、運動する事を避けてきた流星だけど、
「運動したら、移植された心臓から拒否されてる様に感じる…」
なんて今は言わなくなり、体育の授業もサボらず参加している。
だから体育祭も当然出ると思っていたけど…
予想に反し、彼はサラリと言った。
「出ないよ」
「えっ!? 何で?」
驚いて残っていたコップの水を、シーツに少量こぼしてしまった。
流星は私の手からコップを取り上げ、残りの水を一口で飲み干し、コップをベットの下に置いた。
私の腋の下に手を入れ、ひょいと持ち上げると、向かい合わせに太ももの上に座らせた。
電気を点けない薄暗い室内とは言え、
こんな風に裸のまま向き合わされると、恥ずかしくて胸元を隠してしまう。
その仕草に彼はクスッと笑い、
「隠さないでよ」
そう言って、私の両手を静かに外した。
綺麗な指先が紫水晶の指輪に触れて…
私の右肩に触れて…
それから、20針縫った右腕の傷跡を辿り下りて行く。
麻痺腕に触る流星に、不安が湧いた。
「流星…もしかして、私が体育祭に出られないから、遠慮してるの?」
「違うよ。そんな事考えたら紫は嫌だろ?
別に君が出れないから、俺も参加しない訳じゃない」
「だったら何で……」
「んー…言わなきゃダメ?」
「ダメ」
「ハハッ厳しーな。
格好悪い理由だから、言いたくなかったんだけど…仕方ないか。
俺さ、体育やるようになって初めて気づいた。
運動音痴だなって」
「運動音痴…」
「サッカーも野球もバスケも、人並み以下な事に気付いた。
だからさ…格好悪い姿を、紫に見られたくないって言うのが理由なんだけど」
流星は照れ隠しの様な、罰が悪そうな…
そんな表情で目を逸らし、苦笑いしていた。
そんな理由で参加したくないなんて、思ってもみなかった。
もしかして、まだ移植された心臓の事を…
なんて心配してしまったじゃないか。
彼の口をついて出た理由が運動音痴…
そんな理由でホッとしていた。