ラベンダーと星空の約束
流星はそう言って優しく笑いながら、大樹にチョップされた頭を撫でてくれる。
瑞希君はニヤニヤしながらこう言った。
「紫ちゃん、良かったじゃん、心配事が減ってさ。
僕としては、つまんないけどねー。
ほら、ボケッとしてないで仕事教えてよ。僕達何すればいーの?」
「あっそうだよね、仕事しないと…」
仲良くしてくれるなら嬉しいけど…本当に?
お互い歩み寄ってくれるの?
ホッとした様な、肩透かしを食らった様な…
そんな気持ちを抱えながら、2人に仕事を説明し、店の中を動き回った。
◇
あの後大樹は、ビールケースを置いてすぐに仕事を上がり、自分の家の畑仕事に戻って行った。
帰省初日は流星と瑞希君に一通りの仕事を教え、
少しだけ接客して貰い、
18時に店の営業を終えた。
明日の仕込みと店の片付けは、母と青空がやってくれると言うので、
私は2人を連れ、先に自宅に戻る事にした。
店を出ると夕暮れの中、
ラベンダー畑のライトアップの準備を始める父の背中が見えた。
今日は晴れて雲が少ない。
こんな日はきっと、日が沈むと満天の星空が拝めるだろう。
「ラベンダーと星空の約束……」
流星がラベンダー畑に視線を向け、ポツリと呟いた。
「流星、暗くなったら一緒に見ようね?」
「ああ…楽しみだな……」
眩しい夕日に目を細め、しみじみ言った流星の横顔は、ハッとする程綺麗だった。
まだ空は明るく一番星さえ姿を現していないのに、
薄茶色の瞳には、ラベンダーと星空の、6年前のあの風景が映っている様な…
そんな事を思わせる表情で、流星はラベンダー畑を見つめていた。
◇
「あー疲れたー。
ずっと立ちっぱなしだから、足に筋肉ついちゃいそう。
僕の華奢な足が、ムキムキになったらどーしよー」
私達しかいないリビングで、ソファーにダイブした瑞希君が、大きな声でぼやいていた。