ラベンダーと星空の約束
 


瑞希君は、人と打ち解けるのが早いよね。

こんな風にすぐに懐に入り込めるのは、彼ならでは。

私には無理な芸当だ。




弟の青空は、いつもと違い、寡黙に食べていた。



箸を動かしながら、時々瑞希君をチラチラ盗み見している。



青空…
あんたも中3男子、思春期だもんね。


瑞希君ほど可愛い子はフラノで見たことがないから、つい見てしまう気持ちは分かるけど…

お願いだから、惚れないでね…




流星は私が話し掛けても

「ああ」とか「そうだね」とか

相槌しか打たないし、まだ入浴中の父にかなり緊張している。



母が奮発して用意した高級ラム肉…

強制的に皿に突っ込まれる肉と野菜を、片端から口に入れてるけど、

味が分かっているのかどうか、怪しいものだ。




流星は緊張中。

青空は危ない恋の予感中。

母と瑞希君だけは、何も気にせず談笑中。




大樹と流星の対峙の時とは、重さの違うハラハラを抱える私。


流星がこの危機を無事乗り越えられる様、サポートしなければと、左手の箸を強く握りしめた時、


お風呂上がりの父が、白いTシャツと青黒チェックのステテコ姿で登場した。



背もたれから背中を離し、姿勢を正す流星。

釣られて私も姿勢を正す。



母はちらりと横目で私達を見て、素知らぬ振りで鉄板に肉を追加した。



ジュージューと肉の焼けるいい音と匂いが広がるが、気持ちを肉に向けられない。



流星の向かいに父が座る。

流星が挨拶しようと口を開きかけた。



緊張が走る……けれど、


「母さんビール、それとぬか漬も」


父の言葉で、流星は出しかけた言葉を飲み込んでしまった。




その後も、流星は何度も口を開き掛けた。


その度に何故かタイミング悪く、誰かが父に話し掛けたり、父が他の人に話し掛けたりするから、どうしようもない。




「紫パパ、はいビール」



「おっすまんな。
いや〜こんな美人さんにお酌して貰えるとは思わなかったな〜」




あれ…

お父さん、瑞希君を女の子だと思ってる?


お母さん言わなかったのかな?

そうだとしても、瑞希君は自分の事『僕』って話すから、気付いてもいいのに…



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