ラベンダーと星空の約束
一人でひょこひょこ歩いて、ラベンダー畑へ向かう。
真夏の夜は涼しくはないけど、風が吹いているので心地好かった。
店の駐車場には、車が数台停まっている。
ラベンダー畑に目を遣ると、ライトアップされたラベンダーを見ている、観光客の姿がちらほら見えた。
流星は6年前と同じ様に、白樺の木に背をもたれて座り、
私の位置からは、彼の右腕と地面に投げ出した長い足が見える。
その姿に、幼い流星が重なって見えた。
彼は大抵私よりも先に来て、あの場所で今みたいな姿勢で、私を待ってくれていた。
そっか…
流星はそれを再現する為に、私を待たず、先に外に出ていたんだ……
私も真似をして、昔みたいに
「流ー星ー!」と呼び掛け、近づいて行く。
今の私には駆け寄る事は出来ないけど、
一歩踏み出す毎に、幼い頃のワクワクドキドキする気持ちが蘇り、
懐かしさと、ときめきで胸が高鳴った。
流星は方膝を立て、地面に座りながら、私に向かって手を差し出す。
その手に掴まり隣に腰を下ろそうとして、
「違うよ、こっちに座って」
と、流星の両足の間に座らされた。
「あの夏と座る位置が違うよ?
再現したかったんじゃないの?」
「あの夏に、やりたくて出来なかった事を再現してみた」
「ふーん…
こんな座り方したかったんだ…
あの時言ってくれたら良かったのに…」
「あの頃は俺だって初(ウブ)だったから、言える訳がないよ。
『ヤダ』って言われるのも怖いしね」
「ふふっ 嫌な訳ないじゃない…
流星がそんな事考えてたなんて、全然気づかなかった。
6年経ったからこそ、分かる事もあるんだね…」
流星は後ろから腕を回し、私をギュッと抱きしめた。
彼の体温が背中に伝わり心地好い。
流星はうなじに顔を埋め、私の髪に手櫛を通した。
「また髪乾かさないまま来たんだ。風邪引くよ?」
「『また』って何?」
「あれ…これは再現してくれた訳じゃないのか。
6年前にキスした夜も、お風呂上がりの濡れた髪のまま、ここに来たんだよ。
覚えてない?」
「そうだった?
…そう言われたらそんな気もするけど…うーん……」