ラベンダーと星空の約束
「ハハッ 俺の方が覚えてる事もあるんだな。
『忘れるなんて、ひどーい!』って、怒ってもいい?」
「5年も綺麗サッパリ私を忘れてた流星に、そんな事言う資格はないよ!」
「アハハッ ごめんごめん。
もう二度と忘れたりしないから許して。
…… 紫…待っていてくれて、ありがとう…
やっと2人でこの景色を見られたね…
あの夏と何も変わらない……
懐かしくて…綺麗過ぎて……泣きそうになる……」
「うん……」
その後は言葉を失い、目の前の景色に心を奪われていた。
夜の濃い闇の中、青色のライトに照らされ、ぼんやりと浮かび上がるラベンダーの海。
風が吹く度、紫色の穂先が揺れて、波の様に見える。
辺りに立ち込める、心安らぐラベンダーの香り。
頭上の白樺の葉が擦れ合い、サワサワと涼し気な音を奏でる。
雲のない紺碧の空には無数の星が瞬いて、天の川まではっきりと見えた。
東京では決して見ることの出来ないこの星空。
フラノの星空には奥行きを感じる。
手が届きそうに感じる程、大きな輝きを放つ明るい星達に、
消えそうな、か細い光を伝える星の群れ。
じっと見つめていると、それらの星達が迫ってきて…
私の心は星空に飲み込まれて行く……
「流星…星座の話しを聞かせて?」
「いいよ。何座がいい?」
「えっとね…」
星座の物語に耳を澄ませ、星空に思いを馳せる。
その内、気付いたら、カメラを手にした観光客の姿は一人も見当たらなかった。
もうすぐ日付の変わる時間だから、みんな宿に帰って行ったのだろう。
「流星、そろそろ戻ろうか。
明日も仕事だから休まないと」
「そうだな…あ…おばさんに、大切な事を聞くの忘れてた」
大切なこと…?
流星が余りにも真剣な顔をしていたので、緊張しながら、話しの続きを促した。
「紫の両親に付き合いを認めて貰えたって事はさ…
俺、紫の部屋で一緒に寝てもいいんだよね?」
「それは…ダメじゃない?」
「ダメなの?
それじゃ…柏寮に戻るまで、1ヶ月も我慢しないといけないの?」
「そうなるね。我慢してね?」
「… はぁ…」