ラベンダーと星空の約束
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◇◇◇
フラノの夏は短い…
8月終盤、陽射しはまだまだ強いが、吹き抜ける風は随分涼しくなった。
東京よりも一足先に、秋に入ろうとしている。
忙しい観光シーズンは、ラベンダーの刈り込みと共に終わりを迎え、
今は疎らになった観光客を、ゆったりした気持ちで迎える事ができる。
流星と瑞希君が来てくれたお陰で、今年もうちの土産物店は、無事に観光シーズンを乗り切る事が出来た。
彼らの予想以上の働きに母は「来年もよろしく」なんて、今から1年後の約束を取り付けようとしていた。
来年…
私は高校3年生で…流星と瑞希君は柏寮には、居ないんだね……
彼らの進路はまだ聞いていない。
寂しくて…
そろそろ聞かなくてはいけないのに、何と無くその話題を避けてしまう。
来年は…私は広い柏寮で一人生活しているのだろうか……
それとも、柏寮のタイムリミットが来て、取り壊される様を見ているのだろうか……
お客さんが並んでいないレジ前で、簡易椅子に座り、ぼんやりとそんな事を考えていた。
すると、私と同じく暇そうな瑞希君がトコトコやって来て、耳打ちする。
「紫ちゃん“アレ”見てみなよ」
そう言われて後ろを見る。
軽食エリアと土産物エリアを区切るパーテーション、
その隙間から、瑞希君の指差す方を覗いてみた。
今日は軽食コーナーの接客係をしている流星が、
テーブルに向かう女子大生風の女性客と談笑している。
そして…
手渡された小さな紙切れを、エプロンのポケットにしまい込んでいた。
「大ちゃん、またお姉さん達に捕まってるよ?
あ〜今回は連絡先まで渡されちゃって…いーのかなー?」
意地悪な笑みを浮かべた瑞希君が、
「どうする?」と聞いてくる。
「別にどうもしないよ」
慌てず焦らずサラリ言うと、瑞希君のクリクリした瞳が点になった。
流星は店の中でもラベンダー畑の中でも、よく女性客に声を掛けられていた。
連絡先を渡されるのも、予想の範疇(ハンチュウ)。
別に不快に思わない。