ラベンダーと星空の約束
言葉が足りない
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◇◇◇
夏の終わり、充実感と沢山のお土産を持って、午前中にフラノを発ち東京へ戻る。
飛行機を降りると、涼しいフラノと違い、東京はまだまだ残暑が厳しい夏だった。
ぶ厚い灰色雲が太陽光を遮っているのに、外気温の電光掲示は34度を示している。
柏寮の中はどうなっているのか……
約1ヶ月閉め切っていた空間は、きっとムワッとして、空気が淀んでいるに違いない。
シャワー室やトイレなんてカビているかも知れないよね。
約1000kmの移動に疲れているが、帰ったら3人で大掃除しないと。
そんな疲れる事を考えたせいと、フラノ生活に暑さ耐性がすっかり低下してしまったせいで、
駅の通路を歩く足取りは重く、若干バテ気味だ。
流星が心配して
「おんぶしようか?」と言ってくれる。
慌てて首を横に振り、元気な素振りを見せた。
ただでさえ私の分の荷物を持たせ、腕に掴まらせて貰っているのに、
おんぶなんてとんでもない。
と言うより無理だよ。
大半の荷物は昨日柏寮宛てに郵送したけど、それでも手荷物の量は少なくない。
日用必需品や明日提出の夏休みの宿題、
それから、フラノ銘菓に、無理やり持たされた冷凍ジンギスカンなんかも入っている。
それらを全て持ってくれている流星に、私を背負う余裕はない。
無理だと言うと、流星は、
「荷物を全て瑞希に持たせれば、君をおぶう事は可能だよ」
そう言って瑞希君に作り笑顔を向ける。
「無理だよ!
僕は男だけど、華奢(キャシャ)に出来てるの!
筋肉質になりたくないし、絶対に持たないから!
最近の大ちゃんは、紫ちゃんの事ばっかりだよねー。
もう少し僕にも優しくして欲しいよ」
「ハハッ 冗談だって。怒るなよ。
乗り換えしないで、次の改札出ようか?柏寮までタクシーで行こう」
流星の提案に、尖らせていた瑞希君の口元が急に笑顔に変わる。
「いいねー!僕も疲れたからタクシーがいい!
もちろん大ちゃんの財布からだよね?」
「瑞希君ダメだよ。
ちゃんと3人で割り勘で…」