ラベンダーと星空の約束
それに、この色味の悪い陰鬱な空間も、私の憂鬱さに拍車をかける。
普通の教室の半分程のスペースには、業務用の簡素な灰色の書棚が壁を埋め、立ち並んでいた。
書棚の中には、全国各地の有名大学名を背表紙に張り付けた、
これまた灰色のファイルがぎっしり詰め込まれている。
部屋の中央には長机が2つ、向かい合わせに付けられており、
その周りに、やっぱり灰色のパイプ椅子が6脚配されていた。
その机と椅子のセットが2組、空きスペースを埋めていて、
進路指導室内は、見事に受験生の気分を盛り下げる、灰色の空間が作り上げられていた。
受験に関係する部屋こそもっと色合いに気を付けるべきだと思いながら、
後ろ手にドアを閉め、室内に足を踏み入れた。
流星と瑞希君は入口に近い方の長机に並んで座り、
その向かいには彼らのクラス“3-Fの担任”と、私のクラス“2-Bの担任”が座っている。
私が近付くと、流星が自分の隣の椅子を引いてくれて、
流星の隣、自分の担任の向かいに着席した。
3-Fの担任は、50代半ばのベテラン男性教師。
中肉中背だけど、顔が厳つくて貫禄がある。
去年は確か瑞希君のクラス担任で、生活指導もしていた。
「厳しくて融通が効かないから嫌い〜女装やめろって言うし〜」
そう文句を言ってた瑞希君。
進級してもこの先生から逃れられず、4月は凹んでいた事を思い出す。
私のクラス担任は30代前半の、まだ若くて柔軟性のある先生。
話し方も柔らかく恐くない。
うちの担任だけならこんな畏(カシコ)まった呼び出しはしないけど、
きっと3-Fの担任に言われ、仕方なく同席したんだろう。可哀相に。
そんな事を考えていると、
厳つい3-Fの担任が、私達3人が今日記入して提出した進路調査表を、それぞれに返してきた。
「お前ら、真面目に書き直せ」
腕組みしながら睨め付ける3-Fの担任。
真面目に書き直せと言われても、
真面目に書いた物だから、これ以上どうする事も出来ない。