ラベンダーと星空の約束
手元に戻ってきた進路調査表には、私達3人とも大学進学以外の進路を記入していた。
この進路調査表には、第1〜第3の志望大学名、学部学科、志望動機と見出しの付いた、全部で9つの空欄がある。
そして就職やその他という言葉は、どこにもなかった。
ここは明絖大学付属高等学校。
伝統ある都内でも有数の進学校。
この紙が示す様に、大学進学以外の進路は、学校側にとって好ましくない。
実際ここ数年は、ほぼ100%に近い生徒が、大学や短大に進学しているみたいで、
私達3人の様な生徒は特異の様だ。
手元のB5半分サイズの用紙に、
私は『家業を継ぐので進学はしません』と記入していた。
隣に座る流星の手元に視線を移すと、
それに気付いた流星が、微笑みながらその紙を私に見せてくれる。
彼の流麗な字体で綴られた言葉を見て…
こんな場所なのに、頬を赤らめてしまう。
『卒後1年間は執筆活動。
その後、ファーム月岡に永久就職』
永久就職……
結婚の二文字はまだ聞いていないけど、
私が卒業したら、プロポーズしてくれると思っていいのだろうか……
見つめ合い微笑みを交わしていると、
3-Fの担任が「ウオッホン」とわざとらしい咳払いをする。
それで、危うくバラ色の妄想世界に飛び立ちそうだった意識は、この灰色の世界に戻された訳だが、
3-Fの担任の矛先が、私達の将来にまで向いてしまった。
「おい、この『ファーム月岡』というのは何だ?
大文字、お前は月岡の家に婿入りするのか?」
「やだな先生〜、そんな大切な事、こんな場所で言わせないで下さいよ。
そういうのは、もっとロマンチックな場所で言わないと。
サプライズなんか付けたりして、彼女の感動の涙を見たいじゃないですか〜」
流星…ここまで言っちゃったら、サプライズも何もないと思うよ。
期待してる所申し訳ないけど、分かっちゃってるから、感動の涙を見せる自信はないかも。
「月岡、お前が大文字に大学に行くなって言ってんのか?
こいつの学力ならT大合格は固いんだぞ?
お前は彼氏の未来を潰す気か?」