ラベンダーと星空の約束
 


私の座る位置から瑞希君の手元の紙は見えないけど、

都内の美容専門学校の名前が書いてあるみたい。



夏休みに卒業後の進路を聞いてみた時、瑞希君はこう言っていた。




「女装が許される職業じゃないと嫌だからさー、

普通の会社勤めは無理なんだよねー。


洋服ショップの店員さんもいいかなと思ったけど、若い内しか需要なさそうだし、

美容師なら食いっぱぐれる事はなさそうじゃん?


そろそろツインテールも厳しい年齢になってきたからさー、自分の髪をいじる為に色んなアレンジも覚えたいし、美容専門学校に進学するかな〜」





自分の美の追求が目的で、その手段と生活の為に美容師免許を取る。



何とも瑞希君らしい理由で選んだ美容師への道。


それを聞いた時、
「瑞希君に合ってると思う」と素直な感想を言った。



麻痺を負う前、私は自分で前髪を切っていたけど、今は出来ない。



紙なら左手でも結構器用に切れる様になったが、

前髪は失敗しそうで不安だから、瑞希君に切って貰っている。



早くて仕上がりも綺麗だし、切っている間も面白い話しをして笑わせてくれたり、本当の美容師さんみたいに感じた。



女装趣味の美男子美容師って話題性がありそう。

きっと予約殺到の人気美容師になれそうな気がする。




瑞希君は美容専門学校。

流星は私の卒業を待ち、一緒にフラノへ。



そんな私達3人の完璧な将来設計に、目の前の先生2人…特に3-Fの担任は、渋い顔で書き直しを要求し続けている。



気になってしょうがなかった机の上に飛んだ唾は、今は乾いた白い点となっていた。



乾いてもやっぱり気になる、ティッシュで拭きたい……




「我が校は伝統ある進学校だ。こんな進路は認められん。

全く柏寮には問題児しかおらんのか…書き直すまで帰さんぞ」




「え〜横暴〜

大学受験はしないけど、書くだけなら書いてもいいよ。

そうしたら帰ってもいい?」




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