ラベンダーと星空の約束
入口から一歩足を踏み入れる。
するとそこは……何故か色が無かった。
アイボリーの薄い壁板で、正方形に切り抜かれた20畳程の空間。
その壁面に等間隔に並べられた写真パネルがおよそ20点。
中央には壁と同色のパーテーションが2枚、間隔を開けて横並びに設置され、
その表裏に大きな写真パネルが数点貼られている。
毛足の短い絨毯の色はグレー。
『彩の写真展』と題されているから、
当然色彩豊かな風景写真が展示されていると予想していたのだが……
入口から見渡せる範囲の写真パネルは、どれもモノクロ。
「あれ…白黒写真ばかりだね……」
ぽつり呟いた紫も、意表を突かれ、入口に立ち尽くす。
『彩』という言葉とは程遠いこの空間で鮮やかだと感じるのは、
出展祝いとおぼしきピンク色の胡蝶蘭と、紫の着ているコバルトブルーのワンピースくらい。
これは…ハズレだったか…?
紫の好きそうなタイトルに惹かれ、よく調べもせずに連れて来てしまった事を後悔した。
見る価値があるのか疑問だが、折角来て見ないで帰るのもな……
紫と顔を見合わせ頷き合うと、端から順番に写真パネルを眺めていった。
2〜3点見て気付いた事。
どうやら、ロシアの建物や人物を写した写真のようだ。
ロシアの首都モスクワの世界遺産や観光名所が続く。
これは…モスクワのクレムリンと赤の広場の写真だな。
奥の方に聖ワシリー大聖堂の、特徴的なドーム型葱坊主屋根が見える。
この聖堂の屋根は確か、赤や黄色や水色や緑や…
派手な色の縞模様で、童話に出てきそうな華美な外観だったと記憶している。
しかしモノクロ写真からその色は伝わらない。
やはり『彩』と題した意味が分からない。
本から得た知識として、これらの建造物の色を俺は知っている。
聖ワシリー大聖堂の特徴的な色合いや、クレムリンの城壁の赤茶けた色を思い出しながら、モノクロ写真を見る事ができる。
けれど、紫は……