ラベンダーと星空の約束
ふーん…それじゃあ、
写真展を開く事もマレなのかな……
すっかりファンになったから、次の写真展も見に行きたいのに……
プロの写真家ではない我妻さんに、流星が職業を質問していた。
そうだよね、写真で生計を立てていないなら、どんな仕事をしているのか疑問に思う。
見た目からは普通の会社勤めはしていなそう……
我妻さんは内ポケットから手帳を取り出し、それに挟めていた一枚の写真を私達に見せた。
それは白黒ではなくカラー写真で、
金色の長い髪をした碧眼(ヘキガン)の女性が、ソファーに背を持たれ笑っていた。
「僕の妻、アナスタシア。
ロシア国籍の29歳。愛称はアーニャ。
どうだい?美人だろ?ワハハッ」
確かに美しい人だった。
カメラに向けふんわりと柔らかく笑う彼女は、優しそうに見える。
窓から差し込む陽光が、彼女の長い睫毛と高い鼻を陰影で際立たせている。
「写真で飯は食えないから、彼女に養って貰ってるのさ!
ヒモ!言わばヒモ状態!
ワハハハッ格好悪いけど幸せだー!」
笑い上戸な彼の垂れた目尻に沢山の皺が寄り、本当に幸せそうに思える。
妻に養って貰って…と言っていたが、詳しく聞くとこういう事らしい。
奥さんのアーニャさんは以前はロシアの日本語学校の教師をしていたが、
体調を崩して今は自宅で翻訳の仕事をしているそうだ。
出版社からの依頼を受け、日本の書籍をロシア語に翻訳する仕事という訳だが、
たまに逆の、ロシア語から日本語への翻訳の依頼も来たりする。
やってやれない事はないけど、アーニャさんはこれが苦手らしい。
妙に硬い文章になったり、日本語特有の綺麗な曖昧さを表現するのは難しい。
だからそれらの仕事は我妻さんが請け負って、
アーニャさんが社長、彼が社員という形で自宅で翻訳会社を開いている。
その翻訳会社兼住まいはモスクワ市内のアーニャさんの実家で、彼女の両親と4人で生活しているそうだ。