ラベンダーと星空の約束
 


流星は第二内科に入院しているという事で、西側のエレベーターで6階まで上がった。



消毒液と清掃用の薬剤と病院食の混ざった様な、

入院病棟独特の匂いを感じながら長い廊下を進む。



ナースステーションの前を通り過ぎ、4つ目の病室の前で、瑞希君が「ここ」と指差し足を止めた。



「大文字 流星」と書かれた小さなネームプレートに、閉ざされたシンプルな白いドア。



銀色の棒状のドアの取っ手が、蛍光灯の明かりを反射し輝いて見えた。



流星がこのドアの向こうにいる…

そう思うと、鼓動が速度を上げて行く。



この胸の高鳴りは、11日振りに会える喜びと、

本当にもう大丈夫なんだろうかと案ずる心と、

それから、私達を見て驚くであろう、流星の反応が楽しみであるから、かも知れない。




一呼吸置いてドアをノックする。


「はい」と、久しぶりの声が聞こえた。



静かにドアを開けて中に入る。



狭い個室の中には家族の姿はなく、流星のみ。



淡い色合いの薄手の病衣を着て、ベットに胡座(アグラ)をかき、

ベットテーブル上に置いたノートパソコンに向かっていた。




流星は私を見て、瑞希君を見て、

「あ…」と驚きの声を上げ数秒沈黙した後、



「もしかしてバレてた…?」

と罰の悪そうな顔で苦笑いしている。



瑞希君は「バレバレ〜」と楽しそうな声で答えながら、ベットサイドのパイプ椅子に座った。



流星はベットの上をポンポンと叩き、私に隣に座る様に合図した。




「いつからバレてた?」




「初めから〜。大ちゃん嘘付くの案外下手だね。

熱があって頭が働かなかったにしてもさ、あんな嘘メールはないよ。

僕だけじゃなく、紫ちゃんまですぐに見抜いたよ」




「えっ!?紫も初めから気付いてたの?
瑞希に教えられたんじゃなくて?」



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