ラベンダーと星空の約束
流星の中の私のイメージはラベンダー。
『君はラベンダーみたいな女の子だね…』
『俺の中で紫とラベンダーって強くリンクされてるから…』
そう言われて来た。
あ……
そうか…そうかも……
『ラベンダーみたいな女の子』
そのフレーズに、流星が居なくなった理由を見つけた気がした……
柏寮の屑籠から回収した
『ラベンダーと星空の約束』の本。
白い机に置いていたその本を手に取り、急いでページをめくった。
何度も読み返した本だから、大量の文字数の中からでも、探している文章をすぐに見つけ出せる。
あった…ここ。
この文章。
物語の主人公の少年が、ラベンダー畑で出会った少女の印象を綴った文章。
『―――――――――――――――………
初夏を迎えた富良野の大地は紫色に染まり、風が吹くとサワサワと花穂が一斉に揺れ、まるで紫色の大海の様に見えた。
遠目には大海と表したいラベンダーの花の群れは、触れる程に近寄ると、その花の余りに小さきに驚かされる。
昨日言葉を交わしたあの少女は、今日も紫色の波間に一人佇んでいた。
彼女はラベンダーから生まれてきたかと想像する程、この花に似つかわしい雰囲気を携えている。
紫色にそよぐ風の様に優しく香り、その小さな花弁の様に可憐で…
そして簡単に手折れてしまいそうに、どこか儚げに見えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――』
流星は心臓移植を受け、退院してから2ヶ月程でこの本を書き上げたと言った。
移植に喜んでいたのも束の間のこと。
龍之介さんが亡くなり、彼ではなく自分が生きている事に、後悔と罪悪感を抱いてしまった。
そんな辛い日々を支えたのは、11歳の私があの夏に贈ったメッセージカード。
『待ってるね』と書いたメッセージに、救われたと言っていた。
思い出す事もできないけど、紫(ムラサキ)ちゃんが待っていてくれるから…生きていてもいいんだと……
紫(ムラサキ)ちゃんのイメージを具体化しようとして書き上げたこの本のヒロインは、
メッセージカードを見て、そこからイメージを広げた、完全なる空想の少女。
本の中で流星が作り上げた少女のイメージは、
優しく可憐で…弱く儚げ。
流星はこれを結末まで書き上げてから
『何か違う…』と感じたそうだ。