ラベンダーと星空の約束
『俺の中の紫(ムラサキ)ちゃんのイメージはラベンダー。
極寒の大地で雪に覆われても枯れる事なく、次の初夏にはまた美しい花を咲かせる。
強く逞(タクマ)しいラベンダー。
本物の彼女はきっと…俺の描いた少女とは違い弱くはない…強いはずだ。
凛として優しい香りの漂う、強く逞しい紫色の花の様に……』
食堂裏の日陰で心臓移植の辛い記憶を打ち明けてくれた時、
流星は紫(ムラサキ)ちゃんのイメージについてそう語っていた。
そしてそれから数ヶ月後、
あの夏の記憶を取り戻した彼の中で、
強い心を持つ紫(ムラサキ)ちゃんのイメージは、そっくりそのまま私に投影される事となった。
流星が居なくなった理由が分かった気がした。
事あるごとに
『君は強い…』と言っていた。
『ラベンダーみたいだ』と言っていた。
強いと信じていた私が、あの時、弱さを見せてしまったからだ。
入院中の流星に抱かれながら、泣いてしまったからだ。
『俺が死ぬのは怖い…?』
と聞かれて…
『怖い…嫌だ…』
と言ってしまった。
落胆の色が滲む茶色の瞳…
諦めの溜息……
そうだ…
あの時に流星は決めたんだ…
私の前から消える事を……
机の前に立ち尽くしたまま、震える指先で本のページを先に進め、最終章を開いた。
この話しは悲恋の結末を迎える。
心臓手術を無事に終えた主人公の少年は、再会を約束した少女の元に帰り幸せな時間を過ごす。
美しい北の大地で、愛しい少女と刻む幸せな時。
けれど、その幸せは徐々にほつれを見せ始める。
少年は『生存率』という言葉を恐れていた。
手術後に主治医から説明された生存率は…
5年で××%、10年で××%……
その数字は決して低い値ではないけれど、『生存率』と言う言葉自体が、
「死ぬこともあるから…」
そう言われている気がして。