ラベンダーと星空の約束
 



この少女の様に、弱さを見せた私…

主人公の少年の様に、私の元を去った流星……


私達の結末は、もう書き変える事ができないのか……





エアコンの温風が、静かにカーテンを揺すっていた。



淡い紫色のカーテンはゆらゆらと揺らめいて、風にそよぐラベンダー畑を思わせる。



何かが私の心臓を…肺を…握り潰そうとする。



苦しくて息が上手くできなかった。



震える手の中から本が滑り落ち、ガタンと大袈裟な音を立て床にぶつかった。



隣の部屋のドアがバタンと勢いよく開く音がして、続いてこの部屋のドアが強くノックされる。




「紫ちゃん!大きな音がしたけど何かあった?大丈夫?」



「………」





「大丈夫」と言おうとしたけど、口から漏れるのは掠れた呼吸音だけ。




息が吸えない……

呼吸の仕方を忘れてしまった私は、苦しさに首を押さえて床に崩れ落ちた。



バタンとドアが開けられ、瑞希君が飛び込んできた。



私の様子を見てすぐに状況を察した彼は、私の口元をタオルで覆い背中を摩る。




「過呼吸だよ。こうして取り込む酸素量を減らせば、呼吸は落ち着くから」




その言葉通り、数分して普通の呼吸を取り戻す。



さっきシャワーを浴びたばかりなのに、嫌な汗が流れ、ベタつく体が気持ち悪かった。



自分でさえ気持ち悪いと思う油汗の滲む体を、瑞希君は強く抱きしめてくれる。




「もう平気…
ありがとう瑞希君」




彼の腕をやんわりと解いてぎこちない笑みを浮かべると、

目の前の可愛らしい顔がクシャリと歪んだ。




「紫ちゃん……泣きなよ。

泣くのを我慢してそんな笑い方するの止めて…

こういう時は、泣いた方がいいんだよ」




「…泣かないよ。泣いたら流星は帰って来てくれないもの…

私は泣いたらダメなんだよ……」




「意味が分からないな…」




「分かったの…流星が居なくなった訳が…」





それを聞いて身を乗り出す瑞希君に、さっきの考察を説明する。



私のせいなんだと。

私が『怖い』と口にしたから…弱さを見せてしまったから…

流星は私の笑顔を守る為に、離れて行ったんだと……



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