ラベンダーと星空の約束
 


話しを真剣に聞いていた瑞希君は、少し考えてから、納得のいかない様子で首を横に振った。




「そうかも知れないけど、それだけの理由じゃ足りない気がする」




「足りない?」




「僕もこの本読んだけどさ、物語の少年と大ちゃんの病状は違うんだよ。

少年は心臓移植を受けてはいない。

根治術じゃなく、症状を改善する為の手術を受けて、日常生活を取り戻している。

だからこの少年は、手術後もいつか病気が再燃するかも知れないと、不安を抱いて生きてるんだ。

そうだよね?」




「うん」




「でも大ちゃんは、移植という根治術を受けた。

感染症には要注意の生活を強いられるけど、心臓病自体は消えたんだ。

つまり今は健康体。

自分の死について悩む必要はない。


君が『怖い』と泣くなら『俺は死なないよ』って言えばいいのに、

『俺が死ぬのは怖い?』と聞くなんてさ…まるで………………」




「…まるで…何?

瑞希君、最後まで言ってよ。
そんな所で止めないで。

『まるで…自分の死を予感しているみたい…』とでも言いたいの?」




「…違うよ…ゴメン、余計な事言った。今の忘れて……

僕も正直参ってるんだ。
だから妙にマイナス思考になってるのかも。

君の言った事については明日ゆっくり考えてみるよ。

今日はもう休もう。

何も考えず、眠る努力をしようよ、君もさ……」






時刻は23時半を回り、もうすぐ日付が変わる。



瑞希君は床に落ちているラベンダーと星空色の本を机の上に置こうとして、思い直して引き出しの中にしまい込んだ。



それから私をベットに寝かせて明かりを消すと、

「おやすみ」と言って自室に戻って行った。



いつもなら眠気に襲われる夜の濃いこの時間。



けれど今夜は眠りの気配すら訪れない。



疲れた体は休息を求めていても、頭の中だけは妙に冴え、眠る事は不可能だった。



気持ちが高ぶっているのか…それとも沈んでいるのか…

自分でも判断がつかないおかしな精神状態。



何とか冷静さを失うまいと静かに目を閉じると、夜の闇が一段と濃く深くなった気がした。




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