ラベンダーと星空の約束
 


 ◇◇


一睡も出来なかった。

遅々とした夜はいつもより緩慢に時を刻み、ようやく東の空が白み始めた。



夜の間は色々と考え続けていた様な…

逆に考える力が抜け、ぼんやりとしていた様な…

そんな眠れぬ夜が、やっと明けてくれた。




「眠る努力をしよう…」
と言っていた瑞希君も、暫く寝付けなかった様で、

随分と遅い時間に、リビングに飲み物を取りに行く物音が、小さく聞こえていた。




カーテンの外がうっすら明るさを見せた時、身を起こし壁時計を見た。



時刻は6時半。

今日一日、何をすべきか考えてみるが、何も予定が立てられなかった。



何かやるべき事が欲しい…

体を動かしていたい……




3学期の始業式は明後日。

今日からだと良かったのに、残念ながらまだ冬休みだ。



疲労の取れない頭が重く微かに痛んだ。



それでも横になっている気にはなれず、着替えをしてリビングへ行く。



瑞希君はまだ眠りの中にいるみたい。

朝食は温かい物を出したいから、彼が起きた後に作った方がいいだろう。




リビングのカーテンを開けると、冬の朝の弱い太陽光が、薄暗い室内に朝の気配を伝えてくれる。



その光の中で流星が居なくなって一日が経過したのだと実感し、小さな溜息をついた。



南西の角にあるこのリビングには、西側に小さなベランダが付いていた。



そのベランダに繋がるガラス扉から外を見ると、大粒の雪が舞い降りていた。



白雪の舞いに誘われ、靴も履かず、裸足のままベランダに下りた。



氷の様に冷たいコンクリートの床が、足の裏から見る見る体温を奪っていく。



不思議とその冷たさが心地好かった。



足元の氷の様な冷たさが、

雪に洗われ澄んだ外気が、

鈍よりと重たく黒く、淀んだ心の中を、浄化してくれそうな気がしていた。



ベランダに雪は積もっていない。



上の階のベランダが庇(ヒサシ)となり、雪がここまで届かない。



胸の高さのベランダの柵から少しだけ身を乗り出し、左腕をぐっと前に突き出し雪を掴もうとした。



大きな雪の粒は振り子の様に左右に揺れながら、遊ぶ様に舞い降りる。



< 655 / 825 >

この作品をシェア

pagetop