ラベンダーと星空の約束
◇◇
一睡も出来なかった。
遅々とした夜はいつもより緩慢に時を刻み、ようやく東の空が白み始めた。
夜の間は色々と考え続けていた様な…
逆に考える力が抜け、ぼんやりとしていた様な…
そんな眠れぬ夜が、やっと明けてくれた。
「眠る努力をしよう…」
と言っていた瑞希君も、暫く寝付けなかった様で、
随分と遅い時間に、リビングに飲み物を取りに行く物音が、小さく聞こえていた。
カーテンの外がうっすら明るさを見せた時、身を起こし壁時計を見た。
時刻は6時半。
今日一日、何をすべきか考えてみるが、何も予定が立てられなかった。
何かやるべき事が欲しい…
体を動かしていたい……
3学期の始業式は明後日。
今日からだと良かったのに、残念ながらまだ冬休みだ。
疲労の取れない頭が重く微かに痛んだ。
それでも横になっている気にはなれず、着替えをしてリビングへ行く。
瑞希君はまだ眠りの中にいるみたい。
朝食は温かい物を出したいから、彼が起きた後に作った方がいいだろう。
リビングのカーテンを開けると、冬の朝の弱い太陽光が、薄暗い室内に朝の気配を伝えてくれる。
その光の中で流星が居なくなって一日が経過したのだと実感し、小さな溜息をついた。
南西の角にあるこのリビングには、西側に小さなベランダが付いていた。
そのベランダに繋がるガラス扉から外を見ると、大粒の雪が舞い降りていた。
白雪の舞いに誘われ、靴も履かず、裸足のままベランダに下りた。
氷の様に冷たいコンクリートの床が、足の裏から見る見る体温を奪っていく。
不思議とその冷たさが心地好かった。
足元の氷の様な冷たさが、
雪に洗われ澄んだ外気が、
鈍よりと重たく黒く、淀んだ心の中を、浄化してくれそうな気がしていた。
ベランダに雪は積もっていない。
上の階のベランダが庇(ヒサシ)となり、雪がここまで届かない。
胸の高さのベランダの柵から少しだけ身を乗り出し、左腕をぐっと前に突き出し雪を掴もうとした。
大きな雪の粒は振り子の様に左右に揺れながら、遊ぶ様に舞い降りる。