ラベンダーと星空の約束
その雪を追いかけ掴もうとすると、雪は私の指先をかわし、スッと逃げてしまう。
触りたいのに触らせてくれない…
掴もうとするから悪いのかな……
そう思った私は、ただ静かに手の平を上に向け、雪を待つ事にした。
逃げるも触れるも雪の意思に任せていると、
やっと私の手の上にも降りてきてくれた。
音も無く…ヒラヒラと……
尽きることなく…ハラハラと……
綺麗な沢山の雪の粒は、東京の街を白く染めて行く。
もっと降って欲しい。
何もかも真っ白に染め上げて、その清らかさで全てを覆い隠して欲しい。
道路も家々も…車も人の群れも…その白さで覆い……
それから…私の弱い心も…
まるで消えて無くなったかの様に…白く隠してくれたらいいのに……
伸ばした左手の上に雪が積もる事を期待していた。
ずんずんと降り積もって白く染めて欲しかった。
しかし私の気持ちに反して、雪は手の平で溶けてしまう。
積もらずすぐに形を失い、透明な滴に成り果て、指の間をすり抜け消えてしまう。
雪よ…
もっと…もっと降れ……
その圧倒的な白さで何もかも白く塗り上げて…
私の弱さを白く隠し…
二人の物語の結末を…
どうか白紙に戻して……
天空を見上げると、切れ目のない一面の灰色雲から、
幾千幾万の雪の粒が無尽蔵(ムジンゾウ)に降りてくる。
目で追いきれない程沢山の雪の粒。
長時間目を細めてそれを見続けていると、奇妙な感覚に侵されて行った。
私の心に雪が降り積もる。
雪はずんずん降り積もり…
心はどんどん白く隠される……
その不思議な感覚に伴い、次第に悲しみが薄らいでいくのを感じていた。
なぜ自分がこんなにも悲嘆しているのか、分からなくなってきた。
心に雪が降り積もる。
やがて私の弱い心は雪にすっぽりと覆われて…完全に隠れて見えなくなった。
さっきまで悲しみに押し潰されていた心は、今は重石を取り除いたかの様に軽く、
雪を見続けている私の口元は、いつの間にか綻び笑みを湛えていた。