ラベンダーと星空の約束
どれくらいの間、そうしていただろうか。
私の伸ばした手の平は相変わらず白くならないけど、
眼下の狭い道路には、うっすらと雪が積もっているのが見えた。
住宅街の狭い道路は通勤通学途中の人々が行き交い、俄(ニワカ)に活気づいている。
コートの衿を立てた会社員風の男性。
カラフルなコートを着て、大きな鞄を肩にかけた若い女性。
うちの高校より新学期が早く始まった近所の小学生達が、
積もったばかりの雪で遊びながら、楽しげに登校している姿が見えた。
降り続ける雪に心を奪われていた。
寒くは無い、冷たさも感じない。
雪に触れていたくて、もっと沢山の雪に触れたくて、両腕を宙に突き出した。
その時、襟首をグイッと引っ張られ、
後ろに傾いた体は、すっぽりと華奢な体に受け止められた。
首を捻って後ろを見ると、焦った顔の瑞希君。
寝起きの彼はまだパジャマ姿で、髪も結っていないから、ハニーブラウンの長い髪が私の上に幾束か落ちてきた。
ズルズルと引きずられる様に室内に連れ戻され、ベランダへの扉をピシャリ閉められた。
「瑞希君…おはよう」
「おはようじゃないよ!!
何やってんのさ!落ちるじゃん!
ここ5階だよ?落ちたら死ぬからね!!
あっ…まさか…」
「別に飛び降りようとしていた訳じゃないから安心して。
雪降ってたから触っていただけ」
「雪?君にとって雪なんて、珍しくも何ともないでしょ?
まったく…いつからここに居たんだよ……
何この手、ビショビショじゃん。
体も氷みたいに冷たいし、何でコート着て出ないんだよ…うわっ!しかも裸足!?
もう何やって……変だよ……紫ちゃん…今すごくおかしいよ……」
私の正面に立ち、強く両肩を掴まれ揺さ振られた。
険しい表情で真っ直ぐ見つめる瑞希君の瞳は、赤く瞼が少し腫れていた。
私より瑞希君の方が堪えているんじゃない?
昨夜泣いたのではないかと思わせるその顔に向け、笑い掛けた。
「私が変?どこが?
平気だよ。いつもと変わらないよ、ふふっ
瑞希君の方こそ大丈夫?
今すっごい変な顔してるよ?
アハハッ!」
「…紫…ちゃん……
何で笑ってるの…?
…どうしちゃったの…?」