ラベンダーと星空の約束
 


『去年の夏休み、弓道対決したのを覚えてる?

あの時、何を賭けたのかも忘れてないよな?

君が勝ち取った、戦利品の受け渡し期日を早めたい。

来年の3月、紫の卒業式の後、彼女を迎えに東京に来て。

       流星 』





あの野郎………

手の中でスマホがミシミシと軋み、握り潰しそうになってた事に気付いて、慌てて手の力を緩めた。



そういう事かよ…
あったまきた。



流星からのこのメールと、オカマからの話しを合わせて、アイツが突然消えたわけを理解した。




去年の夏休み、弓を引かない俺に、流星が弓道対決を持ちかけた。



「絶対やらねー」つって断ったら、アイツは俺にこう言いやがった。



『紫を賭けての勝負…と言ったら受けるか?』
ってな……



笑えねぇ冗談吐かすアイツの胸倉を掴み、締め上げたけど、冗談で言ってたわけじゃなかった。



アイツは…それ程長くは生きられないと俺に言った。



アイツの心臓は…
恐らく十数年後に動かなくなるって……



だから、アイツが死んだ後に紫を支えられる様、強くなれって…

俺に発破をかけたんだ。



こんくらいの事で弓を引けずに怖がってる様なヘタレな俺じゃ、紫を任せられないから、

弓道勝負しろって…上から目線で言いやがった。




『戦利品の受け渡し期日を早めたい……来年の3月……紫を迎えに……』





もう紫の下に帰らねぇつもりかよ……

命の期限はまだ先の事なのに……



アイツは自分の命の期限について、いつか紫に話すと言ってたけど、まだ言えてねぇみたいだ。



夏休み以降も電話での紫の様子はいつもと変わらず、この冬休みも凹んだ様子はなかったからな。



アイツの命の期限を知ったら紫はどうなっちまうのか…

俺はそれが不安だったけど、流星は夏休みにこう言った。




『紫なら大丈夫だろ…
強い彼女ならきっと大丈夫……』





流星は紫を『強い』と信じていた。



紫は強いから、泣かずに受け止めてくれるんじゃねーかと期待していた。



それが…命の期限を打ち明ける前の段階で、

アイツが入院しただけで、紫は不安に打ちのめされ『怖い』って泣いたんだ。



それで流星は…
打ち明けるのを諦めやがった。



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