ラベンダーと星空の約束
心の中で悪態つきまくってからエレベーターを下りると、
コンクリートの狭く辛気臭せぇ廊下に、
深緑色の扉が、ずらり並んでいるのが見えた。
並んでるドアの一番手前、表札のない501号室の前に立ち、インターホンを鳴らす。
少しだけ騒がしくなる室内の気配が、ドア越しに伝わってきた。
数秒してバタンと勢いよくドアが開けられ、俺の額にゴツンとぶつかりやがった。
同時に「流星!」と元気な声を上げ、裸足の紫が飛び出して来る。
勢い余って俺の腹に突っ込んできた紫を受け止め、まずは苦情を言った。
「流星じゃねーよ。
痛ってーな、ドアは静かに開けろ」
「あれ?大樹?
何で大樹がいるの?」
「てめぇがアホになったっつーから、来てやったんだろーが」
「はあ?アホになんかなってないよ。
何寝ぼけた事言って…大樹の方こそ、アホになったんじゃない?
あっ違った、元からアホで馬鹿だった」
「ったく…相変わらずてめぇはムカつくな……
とにかく部屋ん中入れろ。
腹減ったし飯作れや」
「あんた、本当何しに来たのよ……」
ブツブツ言いながら、紫は俺を中に入れた。
いつもの様にムカつく台詞をポンポン返してくる所を見ると、一見普通な様にも見えるが…
違うな。
オカマが『壊れた』と言った訳が、紫の面を見て分かった。
確かに壊れてんな……
顔が怖えーよ。
口ではムカつく言葉を吐いてるのに、顔は怒らずヘラヘラ笑ってやがる。
何だよ、その薄っぺらい笑みを張り付けた面は。
目付きも変だし…
曇ってるつーか、濁ってるつーか…
こういう目を、何て言やーいいんだ?
あれだ…
よく漫画で、催眠術とかマインドコントロールとかにかかった奴の目付きだ。
目ん玉の中に灰色トーンをのぺーと張り付け描かれた、漫画に出てきそうな目だ。
気持ちが何かに隠され目に表れてねーつーか、
ドロンとしてハッキリしねぇ、嘘臭せー目をしてやがる。