ラベンダーと星空の約束
ラベンダーと星空の約束

 


 ◇◇◇


今年もうちのラベンダー畑は綺麗に色付き、富良野の大地を紫色に染め上げた。



観光シーズン真っ只中の今日、8月7日は私の誕生日。



20歳を迎え大人になったが、自分としては特に変化を感じない。

強いて言えば、肩までの長さだった髪の毛が、プラス10cm伸びたぐらい。




高校を卒業して富良野に帰り、家業と家事に勤しむ日々を送っていた。



観光シーズンの今は特に多忙で、充実した日々の中に、あっという間に時間が過ぎて行く。




私の片麻痺の障害区分は、程度が一つ軽い方へと変わっていた。



根性のリハビリと、医師の言う所の『若さの無限の可能性』により、

今はお店の仕事も、それなりに熟(コナ)せる様になっていた。



引き擦っていた右足は、今も走る事は出来ないけど、


「そう言えば足怪我したの?」

とたまに聞かれる程度の麻痺を残し、注意して見ないと歩行のぎこちなさは気付かれない。



右手もかなり回復している。

以前は中指から小指までの3本は殆ど動きが無かったのに、今はしっかり屈伸出来る様になった。



箸もペンも右手で使え、カメラも三脚無しで、右手を使いシャッターを切る事が出来る。



ただ握力は元通りとはいかず、重たい物を持つ事は出来ない。



それでもここまで回復した事で、軽食コーナーの配膳や調理場に立つことも出来る様になり、

家族のお荷物から脱した事を、嬉しく思っていた。




家族の役に立つことは私の幸せ。

ここが…富良野のファーム月岡が、私の生きる場所だから。






ラベンダーの香りを乗せた夜風が、私の黒髪をさらって行く。



昼の慌ただしい時間の後に訪れる、この静かで穏やかな夜の一時が好きだ。



ライトアップされたラベンダー畑の中に佇み天を仰ぐと、

今宵も夏の星達が、華々しく星座の物語を繰り広げていた。



先程まで数人いた観光客の姿は今はなく、家族も眠りに入るこの時間は、

夜闇の色が一層濃くなり、ラベンダーと星空の幻想的な風景を、一際鮮やかに浮かび上がらせる。



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