ラベンダーと星空の約束
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8月下旬、この夏も流星は現れないまま、ラベンダーの花穂は刈り取られ、出荷されてしまった。
目の前に広がっていた紫色の大地は、少しくすんだ葉の緑と、土の茶色の景色に変わる。
観光客が減り、急に暇な時間が増え、淋しさが募る。
富良野の夏は短い。
あっという間に、木々が赤や黄色に色付き始め…
そして今年も雪の季節が訪れた。
目の前には見渡す限りの白銀の世界。
夏には青々と木々を茂らせていた十勝岳山系も、緑成す広大な野菜畑や田圃も、
牧舎の鮮やかな赤い屋根や煉瓦色のサイロも、
ぽつりぽつりと点在する巨大なロールケーキ型の農業用倉庫も、
それから、紫色に揺れていたうちのラベンダー畑も……
今は何もかもが雪に覆われ、色彩感覚がおかしくなるくらいに、どこまでも真っ白な世界が広がっていた。
12月のもうすぐクリスマスと言う日の朝7時、
私はスキーウェアの様な除雪用完全防寒服に身を包み、マイナス15度の戸外へ出た。
寒い…と言うより痛い。
外気に晒される部分は目元周辺だけなのに、冷気が防寒着をすり抜け全身の肌を刺す。
睫毛には白く霜が付き、吐く息の水蒸気が、口元を覆うネックウォーマーを冷たく凍らせる。
今朝は珍しく凪(ナ)いでいた。
昨夜の雪嵐が嘘の様に、雪雲のない穏やかに晴れた空。
東の方を向くと、地平線から朝日が上り始めていた。
その新鮮な光りを浴び、風紋を残した雪原がキラキラと輝き、空が明るい水色に染められて行く。
今度は西の方向を見ると、富良野川から流れてきた川霧が薄く漂い、雪に覆われたラベンダーの丘が霞んで見えた。
風もなく随分と静かな朝の冷気は、凛と澄んでいて、静寂が耳に痛い。
手にした赤いスコップで玄関前の除雪をチョロチョロと始めた。
サクッと掬い上げドサッと山と積み上げて、ザザーッと押して道を作る。
後から起きてくる父がトラクターで一気に除雪してくれるから、別に私が今やる必要はないのだけど、
これもリハビリと言うか体を動かす手段と言うか。