ラベンダーと星空の約束
流星の今の生活を想像しながら写真を閉じ、パソコンの電源を落とした。
カウンターテーブルから離れて暖炉の側へ行く。
父がくべた薪は黒く炭になり、所々のか細い残り火が今にも消えそうに燻っていた。
燃え尽きそうな薪の上に、太い薪を二本追加する。
火の番人の様に暖炉の前にしゃがみ込んだ私は、静かに考えていた。
流星の居場所をやっと見つけた。
それは素直に嬉しいと思う。
だけど…
「今すぐ会いに、連れ戻しに行こう」
とは思えなかった。
それまで、ひたすらに流星の帰りを待ち望んでいた私の心に…
一片の迷いが生まれていた。
憧れの地で過ごす、充実した日々……
流星はそんな生活を送っているのに、私が会いに行けばそれを壊してしまう。
流星にとって、何が幸せなのかと考えてみる。
私と富良野で生きる事が流星の幸せだと…言い切る自信が無くなってきた。
私の望みは流星と初めて出逢ったあの夏から何も変わっていない。
富良野の大地で流星と共に生きて行きたい。
例えそう遠くない未来に流星の最後を目にして涙を流す事になろうとも、それでも最後まで隣に居たいと願う。
でも流星は……
彼は私が泣くのを怖がり、怖がらせるのを恐れている。
命の期限を私が知った事に気付いていない流星。
私は何も知らず、心安らかで平穏な日々を過ごしていると信じている事だろう。
離れる事で私の笑顔を守ったのだと信じたまま、
憧れの地でやりたい事に没頭する方が、彼の幸せなのではないだろうか……
私がくべた新しい二本の薪にようやく火が移る。
火が移るまでは焦れったいのだが、一度炎が現れると瞬く間に赤々と全体を飲み込んで行く。
膨れ上がり形を変え、暖炉の中を支配していく炎。
その様を見つめながら、逢いたさと流星の幸せについて考えを巡らせる。
除雪を終えた父が、毛糸の帽子を脱ぎながらリビングに入ってきた。