ラベンダーと星空の約束
「紫、お茶入れてくれ」
「………」
「どうした?」
「あっううん、お疲れ様。
ほうじ茶?緑茶?」
「ほうじ茶」
父はソファーの定位置にどっかり座り、テレビをつける。
チャンネルをあちこち回しながら
「何も面白いもんやってねーな…」と呟く父の言葉を、今日は独り言にしてしまった。
いつもなら
「番組表見てよ」とか「この時間は主婦向けばっかりだよ」とか、
何かしら返答してあげるのに、
今は頭がいっぱいで、そこまで気が回らない。
お茶の葉を急須に入れている時も、お湯を注いでいる時も、
頭の中にはずっと同じ問いが繰り返される。
流星に逢いたい…
でもそれは私の為であり、流星の為にならないんじゃないか……
流星の描く幸せな未来図に、もう私の姿は含まれていないのではないか……
ぐるぐると駆け巡る答えの出ない問いに、頭がショートしそうになる。
熱いほうじ茶と稲田のおばさんから頂いた栗最中をお盆に乗せ、父の前に置いた。
心ここに在らずな為、
置いた拍子に飛び出したほうじ茶が、少量手に掛かってしまう。
「熱っ…」
「おい、大丈夫か?
なんかお前変だな、ぼーとした面して。具合悪いのか?」
「大丈夫。ぼんやりするのは、暖炉の前にずっと座っていたせいかな…
お父さん、ちょっと外出て頭冷やしてくるね」
「おう…風邪引くなよ」
夕方のこの時間、見たい番組が見つからなかった父は、諦めて何度も繰り返し見た洋画のDVDを掛け出した。
そのオープニングに流れる音楽は、これから何かが起きると言いたげなメロディーを奏で、観る者の注意を引こうとしていた。
でも、残念ながら注意は引けない。
そのDVDを何度も見ている父は、栗最中の包みを開ける方に気を取られているし、
私は…ショートしそうな頭を冷やす為、リビングを出て外へ向かった。
――――――……
――――…
これがつい数時間前に、流星を見付けた時の話し。
雪の上に寝そべりながら一気に話し終えると、粉雪の舞う宙に向け、白く長い息を吐き出した。
雪の上に胡座(アグラ)をかいて座る大樹は私を見下ろしながら、
珍しく真面目な顔して黙って最後まで話しを聞いてくれた。