ラベンダーと星空の約束
今夜は吹雪くと大樹が言った様に、夜になりかけの薄暗い空は、急激に流れ込んだ雪雲で埋もれていた。
徐々に勢いを増す粉雪で、空気も私達も白く霞んで行く。
向かい合って立つ大樹は何か言いたげな顔しているが、口を開かない。
その代わり、スキー用手袋をはめた大きな手が私の頬を挟み、ほっぺを潰す勢いで押し付けてきた。
「タイヒ…イヒャイ…」
「ブッ…ハハハッ…
ひっでぇブス顔」
大樹の力に私が勝てる筈もなく、悪さを働く腕を掴みながら、モゴモゴ文句を言うしかない。
理不尽な悪態をついて一頻り笑ってから、大樹はやっと手を離してくれた。
マイナス15度の冷気と大樹の手の力で赤くなってしまった頬を摩り、恨みがましい目で見上げる。
非難めいた私の態度に返されたのは、意外にもやけに優しい視線と言葉。
「紫…心配すんな。
あいつの幸せは、お前の側で生きる事に間違いねーから。
あいつ…まだあの指輪、首にぶら下げてんだろ?
それが何よりの証拠じゃねーか」
「そうかな…」
「そうだ。首に指輪ぶら下げて、うつむいてしょぼくれてんだろ?」
「いや、俯いてるのは、手元を見ていたとかそんな感じで、しょぼくれてる訳じゃないと思うよ」
あの写真に紫水晶の指輪とネックレスのチェーンの影が写っていたのは、俯き加減でいたからに違いないとは思う。
それをさっき大樹に説明したのだけど、どうやら流星が落ち込んでる風に捉えてしまったみたい。
別れたばかりの時は落ち込んだりしたかも知れないけど、
離れて3年も経てばきっと…元気に今の生活を満喫してると思う。
それを再度説明しても、大樹は意見を曲げずに言い張る。
「いーや、あのバカ野郎は、しょぼくれて凹みまくってやがる。
紫のこと考えながら、今頃女々しく泣いてんじゃねーの?
ハハッだせー」