ラベンダーと星空の約束
大樹が私の手を引き、家の方へと歩き出した。
外に出て1時間と少し、辺りは2メートル先も見えない程に吹雪いていた。
完全防寒武装をしているとは言え、そろそろ家に入らないと、凍傷や低体温症の危険がある。
「荒れてきたな…」
そう呟きながら大樹は私の体を引き寄せ、風雪の盾となり守ってくれる。
その仕草に見直す暇もなく、頭上から聞こえてくるのは、いつもの大樹らしいムッとさせる言葉。
「お前って、怒らせるとマシな頭になるよな」
「はあ?」
「単純化して素直になって、割と可愛げ出てくんな」
「怒ってる方が可愛げあるって、何よそれ…
でも…ありがとね。
わざと怒らせる様な事言ったんでしょ?…大樹のくせに」
「“くせに”は余計だ」
「アハハッ!
大樹、私もう迷わないよ」
「おう」
「絶対に流星を取り戻す」
「おう。そんじゃ俺、ちょっくらモスクワまで行ってくっから、お前は待ってろな」
「は…?」
「ちょっとコンビニまで」
と言う様な、普通の調子でサラリと言われたその台詞。
それに驚いた時、調度自宅の玄関に着いた。
暖かい空気に包まれ、凍りそうだった体から一気に力が抜ける。
「あ゙〜寒かった。
てめぇの長話しに付き合ってると、マジで凍死すんな」
うちの玄関で、帽子に手袋にスキーウェアに…
ポイポイ脱ぎ捨て身軽になって行く大樹を、私はまだ靴も脱がずに見ていた。
流星を迎えに、大樹が一人でモスクワに……
「無理」
「あ?何がだ?」
「大樹が一人でロシアに行くなんて無理。
あんたロシア語はおろか英語もダメでしょ?」
「何とかなる。ジェスチャーで」
「絶対無理。
私が行くから、大樹は別に行かなくても…」
「お前はダメだ。
ロシアだぞ?ロシアマフィアが町中にウロウロして獲物を狙ってんだぞ?
捕まったらどーすんだよ。危ねぇ」
「大樹…あんたどんな映画見たのよ…
ロシアに対する認識、激しく間違えてるから……」
◇
それから数日間、
「俺が一人で流星を連れ戻しに行く」
と言い張る大樹を止めるのに苦労した。