ラベンダーと星空の約束
 


俺は酒が飲めないが、こういう雰囲気の中に居るのも、悪くないな……




「大樹…」



「あ?」



「ありがとう」



「…日本語で喋れや」





『ありがとう』は確かに日本語で言った筈なのだが…



横顔を向ける大樹の頬は、幾らか紅潮して見えた。



酔いのせいではなく、俺からの感謝の言葉に照れているせいかも知れない。




深夜まで賑やかな酒宴は続いた。



我妻さんと大樹には、ストレートのウオッカはキツ過ぎる様で、途中からライムとソーダで割って飲んでいた。



しかしイワンさんは、ロシア流の飲み方を貫き通す。



キンキンに冷えたストレートのウオッカを、小さな杯に入れ呷(アオ)る様に一気に飲み干す。



気持ち良い飲みっぷり…

だが、途中で体を心配するタマラさんにグラスを取り上げられていた。





酒宴がお開きとなったのは、日付が変わった頃。



アルコール度数40度のウオッカの瓶が3本空になり…

それでもベロベロに酔ったりしないイワンさんは、流石ロシアの男と言うべきか……





 ◇


静寂に包まれる夜半過ぎ、大樹は客間で、皆はそれぞれの寝室で深い眠りについていた。



俺もベットに入ったが、高低差の激しかった四半日分の感情の波を上手く静められず、眠りは訪れなかった。



3時を回り、ついに眠る事を諦めた。



パジャマの上にカーディガンを羽織り、静かに自室を出て階段を下りる。



階下には昨朝の様に
「おはよう」と声を掛けるイワンさんの姿もない。



物音一つしない真っ暗なリビングで、明かりも点けずに、ダイニングの窓辺へと近づいて行った。



暗闇に慣れた目で窓のカーテンを開けてみた。




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