ラベンダーと星空の約束
だから「まだ帰れない」と聞いても、別にがっかりはしていない。
食器を下げ、二人分の熱い緑茶を入れに行き、
昨日稲田のおばさんから頂いた、温泉饅頭の箱と一緒に大樹の前に置いた。
温泉饅頭は大樹の家にも、同じ物があると思うけどね。
「おい、眉間にシワ寄ってっぞ。
帰るっつってたから、その内帰るんじゃねーの?
イライラしねーで待ってろよ」
「眉間に皺が寄るのは、あんたのせいであって、流星のせいじゃないから。
流星がまだ帰れないって言うなら…私は待つだけ。
別にイライラしてないよ…」
「そんならいいけど。
あ〜やっぱ、あんこうめぇな!
クリームもジャムも暫く食いたくねぇ」
トーストにもジャムをベッタリ塗るし、鯛焼きもクリームを買って来る大樹が、ロシアに行って随分と和食派になった物だね。
「見てろ」と温泉饅頭2つを口に放り込み、ハムスターみたいな頬っぺになっている大樹に、
「子供か!」とツッコミ入れながらも、流星の事を考えていた。
さっき言った様に「まだ帰れない」と聞かされても、がっかりしていない。
焦りや不安も生まれない。
それは、流星がメールをくれたからでもある。
『もう少しだけ待っていて…』
3年待ってやっとくれた言葉は、そんな短い一文だった。
短くても、その言葉は確かに私の心を温め、3年分の苦しさを一気に払ってくれた。
嬉しかった……
送信したメールを、流星は読んで受け止めてくれたんだ……
『待っていて』
その言葉があれば、強く待ち続ける事が出来る。
待つと言う行為は同じでも、不安だった3年間と今は違う…
流星…待ってるよ。
逢える日を楽しみに待っているから…
「キモイ。ニヤつくな」
「酷っ…ニヤついてない。
微笑みと言ってよ」
流星を思い浮かべニヤニヤしていると、もう一度「キモイ」と言われ、饅頭を口に突っ込まれた。
うん、美味しい!
じゃなくって…
「食べちゃったじゃない!
冬はオヤツ禁止だって言ってるでしょ?
しかも夜なのに、太っちゃう!」
「おっそうだ、その話し、流星に教えてやったから」