ラベンダーと星空の約束
「…は?何の……あ〜!
まさかあんた、鯛焼きの話しを!?」
テーブルをバンッと叩いて身を乗り出すと、饅頭片手に大樹がニヤリと笑う。
「紫を傷つけるのが怖ぇなんて、バカだよな。
けど、ようやく分かったんじゃね?
そんな心配いらねぇくらいに、お前が神経図太いババアだって、頭ん中叩き込んどいたぞ」
「た…大樹!!」
どんな説得の仕方してるのよ!
私の強さを伝えようとしてくれたのは分かる。
私は強いから心配せずに帰ってくればいいと…
そう言いたかったのだろうけど……
物には言い方ってもんがある。
『神経図太いババア』って酷過ぎる!
鯛焼きの話しだって、後で反省して謝ったのに…大樹、根に持ってたね…?
強さを理解してくれても、別な意味で逃げられたらどうしてくれるのよ!!
でも…それはないか。
例え私が図太いババアであっても、流星が私を嫌いになる事は有り得ない…と信じたい……
◇
その後は、長い半身浴を終えた母がやっとお風呂から出てきて、話しに加わった。
私と母の質問に答える形で、大樹はロシアでの出来事全てを語り出す。
まさに珍道中。
その行動のバカっぷりに、母と私はお腹を抱えて笑った。
言葉の壁に苦戦するとは思っていたけど、まさか警察沙汰になっていたとは……
しかも流星は流星であって『スターライト君』ではないからね?
名前を英訳してどうするのよ。
しかも間違ってるし。
さすが大樹、ある意味期待を裏切らない。
大樹の話しは8割が笑い話だったけど…
笑いだけじゃなく、淋しくもなった。
我妻さんの素敵な家族に私も会いたかった。
流星の驚きや戸惑いの表情を、直に見たかったし、
今の彼の居場所を、大樹の語彙不足な表現じゃなく、自分の目と肌で感じたかった……
大樹の話しは一時間続き、その間笑って…しんみりして……だけじゃ終わらなかった。
流星を殴り飛ばした場面と、私の事を『肝っ玉ババア』だと告げ口した場面で、
思わず目の前の温泉饅頭の箱で、おバカな頭をぶん殴り…
「それ以上バカになったらどうすんの!頭は止めなさい!」
と今度は私が母に叩かれた。