ラベンダーと星空の約束
我妻さんに内緒で書いている物は、アレだと思う。
お世話になった我妻さん家族に、恩返しがしたいと流星は大樹に話した。
今熱心に書いてる物は、我妻さん家族へ贈る物語。
我妻さん、アーニャさん、その両親の4人の物語を、綴っている最中なのだろう。
我妻さん家族にどんな歴史があるのか私は知らないけど、流星が書きたいと思うくらいに、素敵な物語を秘めているのだと想像する。
流星らしい恩返しの方法で、素敵な贈り物だと思う。
私もいつか読ませて貰いたいな……
そんな訳で「早く帰れ」と責っ付く事も出来ず、今日も大人しく待ち続けている。
今は忙しさに時の経つのが早く感じるけど、
ラベンダーの季節が終わり、お客さんも減って暇な時間が増えると、
きっと流星の事ばかり考え、溜息をつくのだろうな……
西の空は真っ赤に燃え、大きな夕陽が丘の向こうに沈もうとしていた。
放射状の赤い光は、空に浮かぶ綿雲達を、オレンジ色に染め上げる。
星空も美しいが、夜になる前の黄昏(タソガレ)時もまた美しい。
土産物店の平屋の建物が、広い駐車場に長く影を伸ばし、
日中の強い陽射しに熱っせられたアスファルトを、密かに冷やしてくれていた。
閉店後の店内にも眩しい夕陽が差し込み、一人残る私の影を、くっきりと床に浮かび上がらせる。
閉店時間と同時に、アルバイトの人達には上がって貰った。
レジを閉め売上計算をし、掃除と明日の準備をするのが私の仕事。
今日は母が家族の夕食の用意に、先に家に帰っている。
店の後片付けは私、家族の夕食の準備は母と決めている訳じゃない。
その日の気分で、適当に交代でやっている。
父はまだラベンダー畑の中で、夜に向けライトアップの準備に忙しい。
弟の青空はと言うと…
昨日の閉店後からいない。
無事に大学生になれた青空は、4月から札幌で一人暮らしを始めていた。