ラベンダーと星空の約束
明日の調理の仕込みは母が済ませてくれたから、後は掃除をしておしまいになる。
まだ眩しい西日を残す店内で、モップを手に床掃除を始めた。
床って結構汚れる物だ。
ラベンダー畑に入った後に店内に入れば、靴に付いた土汚れが落ちるのは当然。
ソフトクリームやジュースがこぼれ、ベタベタになっている所もあり、
そこはモップじゃ取れないから、しゃがみ込んで雑巾で擦らないといけない。
私が床を雑巾で擦っていると、ドリンクの補充を終えた大樹が近づいてきて、
テーブルに立て掛けてあったモップを手に取った。
「大樹、掃除までやらなくていいよ。
手伝って貰っても給料出せないもの」
「いらねぇよ。
少ない小遣いやりくりしてるガキじゃねぇんだ。今は働いた分、自由に使える」
「あんたまさか…
貯金しないで全部使っちゃってるんじゃないでしょうね!」
相変わらずゲーム好きな大樹。
日に日に新しいソフトやゲーム機が増えているのは知っている。
それらで通帳残高がゼロになる事はないと思うけど…
いや大樹の事だから……
大樹の金銭管理が心配になり、雑巾を持ったまま立ち上がり、マジマジとその顔を見つめた。
立てたモップの柄(エ)に両手を乗せ、その上に顎を置いた大樹が、呆れ顔で私と視線を合わせる。
「お袋と同じ台詞吐きやがって…
やっぱお前は、中身がババ臭ぇな」
50歳の大樹のおばさんと同じ台詞を…
そう言われてハッとした。
「…… ねぇ…私、老(フ)けたと思う?」
雑巾を持ったままの手で自分の頬を触りそうになり、途中で気付いて手を止めた。
数日前、21歳の誕生日を迎えた私。
まだ小ジワは無いし日焼け止めもちゃんと塗っているからシミもないし…
「若くていいねぇ」とお客さんにも言われるけど、流星が知っている私は17歳の頃まで。
流星と再会して、4年後の私を見た第一印象が『老けた』だったらどうしよう……
そんな怖い事を考えてしまい、手の中の雑巾がバサッと床に落ちた。
それを見て大樹がバカにした様に笑う。