ラベンダーと星空の約束
 


「ハハッ ようやく自分がババアな事を自覚したか」




「大樹…私そんなにババア?

年相応だと思っていたけど、もしかして21歳にも見えてない?」




「見た目は老けてねぇから安心しろ。むしろ若く見えるんじゃね?

お前の場合中身がババアなんだ。

けどそれは昔からだぞ。
今更流星だって気にしねぇだろ」




「………」





安心していいのかどうなのか…よく分からないフォローを貰い溜息をついた。



床に落ちた雑巾は、捩(ネジ)れて潰れて…何故か自分の姿と重なって見えた。



流星…この夏は戻らないのかな……

今年のラベンダーは、後一週間で終わってしまうというのに……




ひしゃげた雑巾に視線を止めていると、

ガタンとモップが床に倒れる大きな音が、静かな店内に響いた。



モップを倒したのは大樹。

その音と同時に、日焼けして爪の間に土汚れなんかも入っている大樹の働く手がニュッと伸びてきて、

私の顎を粗雑に捕らえ、顔を上げさせた。




「何よ」



「泣いてんのかと思った」



「何で泣くのよ。
泣く必要なんて…何も無い…」



「素直じゃねぇな…
いつ帰って来んのか、我妻のオッサンに聞いて貰えば?」



「…うん…」





大樹に顎を掴まれたまま、自分の顔と同じくらいに見慣れたその顔と向かい合う。



日焼けした褐色の肌。


相変わらずの七分刈りの坊主頭は、最早大樹のトレードマークと化している。


目つきが悪いと言われる一重の瞳は、良く見ると優しい色をしている事を私は知っている。




真顔の大樹と見つめ合っている間も、静かに時は流れ続けていた。



夕日は丘の稜線に淡いオレンジ色の光を残し、夜の帳(トバリ)が下り始める。



店内は薄暗くなり、濃く長く伸びていた私達の影は、いつの間にか消え失せていた。



大樹の後ろの窓から見えるラベンダー畑が、青く光りを放つ。



ライトアップの準備を終えた父がスイッチを入れたみたい。



点灯を待っていた観光客の、短い歓声が聴こえてきた。



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